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バチン


 また終わらなかった。また始まった。自我があり、俺が俺を認識している。せっかく普通を味わって幸せだったのに。


 アイツらか。父と母というあの人間が邪魔をするのだろうか。怒鳴り声と金切り声、飛んでくる拳。アイツらを殺せば自分は解放されるだろうか。


 ゆっくりと目を開ける。目を開けても真っ暗でもうスタートしないことを願うが、光は容赦なく降り注ぎガラス玉をすり抜け脳に情報を与える。ちくしょう


「今日から君はここで過ごすんだよ」


 真っ黒な趣味の悪いスーツの女に手を繋がれて、子供に与えるには無機質な部屋に連れて行かれる。なんてことだ、もう組織じゃないか。これじゃあの人達を殺すこともできない。また繰り返すのか。


 同じようにテストを受けさせられた。あの人たちが何をほらを吹いて俺を売り込んだのかは知らないが、今度は組織の内側から食い破ってやれば終われるだろうか。

 信用してもらったほうが動きやすいのだろうと、テストにも教えられることも組織のいうをことを素直に聞いて居たが、おもちゃ作りに変わってくるにつれて気が滅入ってくる。文房具や玩具の試作品作りに使う道具を使ってなんとか死ねないものかと色々試しているうちに危ないものは全部片付けられ、部屋の壁はクッション性になっていた。今は何をするにも監視付きだ。

 気難しい子どもには女、と安易に考えたのか俺の部屋を訪ねてくるのはベルモットが多かった。


「nice me to」


 何も覚えてない初めましてを繰り返すベルモットに苛立ちを覚えたので、彼女にべったり張り付くことにした。単なる八つ当たりだ。


 懐いた俺を最初は面倒臭がっていたが、手のかからない子供、と認識されるにつれて可愛がってくれることも増えた。任務帰りにはお土産があったり、お土産がなくとも一緒になった任務の相手の愚痴を言いに部屋に寄るようになった。


「ほら、これお土産よ」

 投げ渡される小さな紙袋を受け取ると高そうなチョコレートのロゴ。有名なのかは知らないが彼女が買ってきてくれるものに美味しくないものはなかった。

「あ、チョコレート。ご機嫌斜めだね、何かあったの?」

 さっそくチョコレートを食べるためにコーヒーを煎れる。綺麗な脚を組んで椅子にどかっと座った彼女はしばらく居座る気だろうから彼女の分も。
「あら、聞いてくれるのね。貴方だけだわ、そうやって言ってくれるのは」

 整った眉を器用に片方だけ上げて肩を竦める。

 普段ここまで感情をあらわにしない彼女が不快感を隠さない相手はだいたい

「ジンか」

「Exactly」

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