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 僕が笑顔で隠した毒を含んだ言葉をかけても表情を変えない彼は、スイという。その行動のほとんどをベルモットと共にしていた。

 僕よりもずいぶん年下のようにみえるが組織の中では古参であるらしい。それなのに自分で考えもしないのか幹部や構成員の言うことに言い返すことも逆らうことも見たことがなかった。従順で、素直に良し悪しも考えずただ言われたことをしているだけ。

 自分は悪い、間接的にではあるが幸せに暮らしていた人や家族が待っている人たちにひどいことをした、などと考えることもないのだろうか

 何も考えず、罪悪感も抱かずに?

考えれば考えるほど腹が立つ。僕の友人は正義のために散っていったというのに。

 そんなこと思ってればまずこんな組織にはいないか。それにこれはただの八つ当たりだ。僕がもっと早く景光の異変に気づいていれば。僕がもっと早くこんな組織が潰せれる情報を掴んでいれば。

 何も言い返してこない彼を責めて自分ができなかったことの言い訳にしているだけだとわかっているのにどんなに嫌味ったらしく言葉をかけても表情を変えない彼に無性に腹が立つのだ。言い返せばいいのに。そうさせないのも僕だけど。組織にずっといるとこんなふうに感情が死んでゆくのだろうか

「ねぇ、君が作った玩具で人が死んでいくのはどんな気分ですか?」

 言葉に出したあとしまったと思ったがもう取り消せない。彼の方を見ると俯いていた顔を上げて

「どんなだと思う?」

じっとこちらを見返す彼はどんな顔を作ればいいのかわからなくなったような泣き顔も笑顔も怒りも全部が混ざった顔をしていて返事が出来なかった。

 彼は本当に感情が死んでいるのか、押し殺しているのか

 結局得体が知れない彼への疑心と恐怖拭うことが出来ず、ベルモットとの任務でも話をすることはほとんどなくなった。

 この時、彼のあの表情の意味を、彼の出生を、生い立ちを、聞いていれば僕は彼を救うこともできたかも知れないのに。僕は逃げた。いつだって後悔は後ろ髪を引っ張りながらついて回ってくるのだ。

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