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 バチンと何かがはじけて気がつけば組織の自分の部屋だった。組織にかかわらず死ぬことは許さないとでもいうのだろうか。やりきれなくて、でも感情をぶつける矛先が見つからなくて頭を壁にぶつける。ゴチンと大きな音がして痛いけれど死にはしないし、目を開いても景色は変わらなかった。


「おい。来い」


 ノックもせずにガチャリと開いたドアから入ってきたのは最後に見たときより若いジンだった。俺を部屋から連れ出すということは今度はコイツが教育係か。


 そういえばジンはノックを嗅ぎつけるのが誰よりも早かったな。それにこなす任務も多かったはずだ。もしかすると情報を得られやすいかもしれない。コイツでいいか。


 本当はウォッカの方がお人好しで良さそうだけど結局兄貴と慕うコイツが出てくるなら一緒だろう。そう思って懐いてみたのが間違いだと知るのはそう遠くなかった。


 懐いた、というか周りをチョロチョロし始めたことはジンがまだ若いこともあって鬱陶しかったのだろう。「まとわりつくな」としょっちゅう殴られたり蹴られたりしていた。他の構成員が止めに入ってくれることもあったが基本誰も干渉しようとはしなかったし、今世は情報収集に徹底しようと思っていたので殴られても離れるつもりはなかったので問題はないが衝動的に襲われる希死念慮は消えることがなく部屋から徹底して危険物が取り除かれる。


 そのうち自傷行動もジンが言えばなるべくやめてみたり、任務命令もジンを通していると人もまんざらでもなくなったのかあれだけ鬱陶しいと蹴飛ばしていた俺を連れて歩くようになった。ペット感覚で見せびらかすように連れて歩かれるので正直面倒臭くはある。


 「スイはジンの前でなけれは声も出さない」なんて組織で言われ始めたころに前回はベルモットに付いていたせいか一度だけベルモットと会話をしたことがあった。内容も覚えていないような他愛も無い話だったがジンは気に入らなかったようで、自分といる時以外は俺を組織の連中からも遠ざけた。


 するとまぁ今世も恐らくノックであろう連中に全く近づけない。情報欲しいとか言う前にほとんどの構成員とか変わりがないしジンは元々そんなに口数が多い方ではないので今回の人選は完璧に失敗である。


「スイ」


とある任務の同行でホテルまで連れてこられた俺は当たり前のことのようにジンと同室だった。というかこの任務自体が抜けようとした下っ端構成員の処理なので基本デスクワークしか脳のない俺が引っ張り出されること自体おかしな話だが“ジンのペットのスイ”が当たり前なので文句は言えない。


「ん」


 シャワーを浴びて滴の落ちる髪のままベッドに腰掛けるジンの足元に座る。いつのまにか定位置になってしまったが彼は決して横に座らせようとはしない。まるで犬や猫の世話をする様に俺の髪を乾かすと満足して眠る。いつも不敵に笑うジンが俺のことをどう思っていようが興味ないがどうにか一人の時間を作らないと当初の目的である情報収集がままならない。扱いは雑だがこうやってペットの世話をすることがある、というような無駄にジンの情報だけ集まってしまう。現状打破のため悶々としながらソファで眠る。ああ、神さま。このまま死なせてください。眠るたびに行う祈りは一回だって届いたことはない。


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