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 俺の神さまは人を惹きつける何かがあるらしい。組の織の一斉捜査の日、公安やFBIに混じって現場に混じっている小さな体にはどんな力が隠されているのだろう。どういうおまじないをすればこんなにも人を動かすことができるのだろう。まぁ銃弾が飛び交うなかスケボーで走り回るのは関心しないが。君に死んでほしいわけじゃないんだ

 通りすがりの少年を抱き抱えるようにして捕獲する。スケボーだけが走って壁にぶつかる。壊れてないよな、たぶん

「おい、なにやってるんだ」

「おにいさん!ちょうどよかった。この建物に爆弾しかけるならどこ!?」

「...君が身を危険に晒すことはない。...FBIと公安かな。どっちでもいい早く彼をここから出して」

 工藤新一がつけている小さなインカムはどちらかもしくは両方と繋がっているだろう。こつこつを指で叩いて口を寄せる。なんてところに彼を放り出しているのだ。手を離せないからこの子がここにいるんだろうか。それとも正義感が強い彼が飛び出してきたのだろうか。誰でもいい早く回収してくれ。

「何を⁉場所がわかるなら早く止めにいかなきゃ!」

「あれは自爆用だ。ここに強制捜査が入った時点でここにいる連中はどうなるかわかってる」

「だからって何もしないわけじゃないでしょ」

「君が命をかけるほどのことじゃない」


 どいつもこいつも救いようのない悪人ばかりだ。返事をさせないように抱えて走り出す。廊下は閑散としているが遠くで怒鳴り声や銃声が聞こえる。もうここも長くはもたない。他の場所にある施設もそうだろう。抜け出そうともがく小さな手足が「お願い」、そういうとおとなしくなる。優しい子だ。小さい頃に君がいれば俺は繰り返さなかっただろか。こんな場所にいなかっただろうか。その笑顔で照らしてくれただろうか。コンクリートを響かせながら一番近いセーフティーゾーンに走る。どのくらい時間があるだろう


 時計を見る。いつ起爆スイッチが入ったのかは知らないがほとんど時間はないだろう。もう少しで壁や床が丈夫なセーフゾーンだ、というところで遠くから爆発音が響く。ダメだ、もう持たない。近づいてくる爆音に抱き込んでいる小さなヒーローが身動ぎする。限界だ、と思った。抱えていた彼を目の前まできたセーフゾーンに思い切り投げる。小学生でも軽いほうだろう。俺が投げた勢いと後ろでする爆風との勢いで体勢を崩す中で、俺に向かって手を伸ばしているのが見える。真剣そのもので、本当に俺の命を掴もうとする彼が、強欲で、誠実で、一生懸命で。ああ、ベルモットが彼を大事にしていた気持ちがわかる。俺も彼にこの手を取って欲しかったなぁ。熱気と崩れた建物の残骸がぶち当たる。あっちもこっちも痛いのについ、笑顔になってしまうのは彼の魔法だろうか。


「江戸川コナン。お前はしっかり生きて」


 聞こえたかどうかは分からない。目を見開いてこっちを見ている顔が自分を覆う煙で見えなくなる。彼の叫ぶ声が聞こえた。すまない。俺のことは何も覚えてなくていい。責任も罪悪感も怒りも全て忘れてくれ。俺の死をどうか彼が引きずりません様に。俺が終わった後、彼の時間はきっとその命が尽きるまで続くのだろう。その時、俺の死を持っていなくていいのだ。俺がいない世界で彼が無事に生き残ります様に。


 きっとこの行為は無責任だと分かっている。勝手に命を救って勝手に死ぬのだ。だから、どうか。


 顔が炎に包まれる。爆風も合間ってあっという間に意識が遠のく。身体中のあちこちが熱くて、自分から千切れていくのがわかるが、痛い、苦しいを感じる余裕がないことが救いだろうか。


ああ、お願い。目が覚めません様に。

 


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