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クズの元に生まれてクズとしてすくすくと育てたれた。
勝手に育ったというべきか。物心ついたころには両親は犯罪者で、しかも何かしらの組織に所属しているらしいことがわかった。普通だと思っていた金遣いも時折する血の匂いも、つけっぱなしのテレビやたまに出る外で見る親子とは随分かけ離れていたから。
分かったからと言って非力な子供の力で抜け出せることもなく、怒号と暴力の中で1人遊んだ。一度見たものは忘れないから何度でも絵を描く。クレヨンで頭の中にある光景を描く、消す、描く。
両親が言っていた言葉を意味も分からずなぞって適当に歌を歌う。あの時、どんな表情までを再現すれば「これは使えるんじゃないか」とふと思ったらしいご両親が丁寧に組織に献上した。俺を。
「どうやらこの子は一度見たものは忘れないらしい。紙やディスクに残しておいてまずいものや、ターゲットの顔まで残しておける」
便利だ便利だと売り込んでとうとう昇進したらしい。
当の俺は、お出かけだ!みんなでテレビで見たような大きな店やテーマパークに行けると思っていたのに訳もわからず連れてこられた施設で、まず教わったのは銃のばらし方と組み立て方だった。
やれば褒めてもらえる、そう思って言われたとおりになんでもやった。次第にできて当たり前になり、褒められることはなくなっていく。
使えるか使えないかは別としてコマは増やしておきたいらしい組織は入れ替わり立ち代り「先生」を変えた。
幼心にここは間違っている。だってテレビでよく見る人が死ぬやつを作ってると思いながらもどうにもできず、なるべく逆らわずいつかきっとテレビで見るような公園や動物園や水族館にいけるんじゃないかと思っていた。
そういう番組を見ている俺をベルモットが悲しそうに見て時々頭を撫でてくれたのはそんなことは幻想だと知っていたからだと気づいたのはもう少し大きくなってからだった。
両親が死んだらしい。
体も脳みそも成長し、いつか迎えにきてくれるなんて思ってもいなかったが、死んでるとはおもわなかった。どっちかが任務で失敗して、逃げ出したどっちかも組織に殺されたらしい。自業自得だと思うほどには情も薄れている。
こんなガバガバな情報を教えてくれたのは銀髪を長く伸ばして凶悪な顔をしたジンだった。
泣くか喚くかと思っていたらしい俺がへぇと何の感情もなく言うとつまらなそうに出て行った。趣味悪いなと思ったがむしろなんで俺がそんなに一喜一憂すると思ったのだろうか。そいつらが。両親が、犯罪組織になんて所属していなければ。普通に育ててくれていれば。こんなところに連れてこなければ。
たら、れば。いつか絵本で見たお使いにいった子どもが両親から褒められて抱きしめてみんなで美味しいご飯を食べる、なんて幻想だってもう俺は知っているのだ。水族館やテーマパーク、大きなショッピングモールはいい子しかけなくて親も自分も悪人だからそんなところに足を踏み入れてはいけないのだ。
季節の変わり目なのか、走り回って体力を作るような生活をしていないせいか熱を出して救護室に運ばれることが多々ある。ジンの面倒くさそうな顔にざまぁみろとほくそ笑む。
拳か足が飛んでくるので声には出せないけど。
救護室には自分よりも少し大きい女の子がいた。名前を明美というからしい。先生の娘さんで、明美はおねえさんというものに変わるらしい。それがどういうことのかイマイチよくわからなかったが明美の表情を見る限り喜ばしいことのようなので一緒に笑う。
彼女と話すようになって窮屈な生活に少し気が抜ける機会が増えて、ベルモットに「あら今日は楽しそうね」と言われる日が増えた。しかし、そんな楽しい時間は長くは続かない。わかってた。わかってたさ
明美は違う場所に行くらしい。いくつかある施設の移動というやつだそうだ。「またいつかあおうね」「妹が来たら絶対一緒に遊ぼうね」「約束だよ」明美の言葉に頷くが、この約束が守られる日が来るのだろうか。約束がかなったことは今のところ一度もない。
明美がいなくなって話す相手が極端に減るとだんだんと顔がぼやけてきた両親を思い出すことが増えた。もう恨んでも居ないが今日もきっとどこかで誰かが死んでいる。そして俺はそれを手伝うために生きている。
一度見たものを忘れない性質は思いの外役に立った。銃の組み立て方はもちろん、構造を覚えているので直すのも、改良するのもお手の物だった。
それは銃以外の兵器にも同様だったし、車もバイクもバラしては直す。誰かが盗んだか奪ったか。血のついた設計図を覚えては組み立てる。
さすがに専門的な物を作ろうと思うと設計図が頭にあったとして技能が伴うわけじゃないからなんでもかんでもできるわけじゃない
「ふざけてんのか、全部作れ」
綺麗な銀髪を揺らし今日も今日とて不機嫌そうなジンがこちらを睨む
「できるものとできないものがあるよ。俺は万能じゃない」
「はっ、テメェなんかを万能と思っちゃなんかいねぇよ。はなからやる気がねぇのが気に入らないだけだ」
無茶ぶりしといて人のことを鼻で笑うの早めて欲しい。去っていったジンの背中に向けてベロを出す。長期任務とかでどっか飛ばされねぇかな。
施設に連れてこられてはや何年だろうか。
「スイが作った玩具はよくできてる。今回の任務は簡単だったぜ」
スーツを血塗れにした組織の人間がわざわざ俺に与えられた部屋に意気揚々とやってきた時は流石に吐いた。
ソイツが付けている返り血の人間を、俺が殺した。
今まではただ設計図を引いて組み立てればよかった。見たものを頭から引き出してればよかった。
それが急に目の前に死体が転がっているような現実を突きつけられた気がした。そうだ、俺がいるのは大規模な犯罪組織で、人を殺して生きている。
それから何度かみせられた設計図とは違う計算式や数字を使ってどうにか玩具が完成しないように努力した。けれど、組織の研究員は優秀で「誤差だったよ」と笑顔で完成の報告に来る」
「怠けてんじゃねえ」とジンに殴られる日も増えたが組織が弱体化することも、俺が誤魔化して人を救えるできることもなくなった。
救えた、だなんて自分で思ってるだけだけど。
真っ黒い髪をした東洋人が新しく名前をもらったらしい。なんと言ったかな、組織の中で人が入れ替わることは少なくなかったし、覚える気はなかったのにライフルをよく使うらしい新しい名前付きはよく作業室に来る。
「名前付き、ほら出来たよ。イギリス製に拘らないならいくらでも部品あるだろうに」
照準を覗いて入念にチェックする。壊してねぇよ。だが、なんとなくコイツはメンテも自分でするタイプだと思う。なのにわざわざここに来た理由はなんだろうか。
「助かった。しかし、その名前付きと言うのはなんだ」
ジンに負けず劣らず無愛想なやつだなとじっと見てると意外と話しかけてきた。めっちゃまつ毛長いし、瞳の色が緑でクマさえなければいい男なんだろうに。つか意外と世間話すんだなぁ
「あ?もらったんでしょ?趣味の悪い酒の名前。まぁ幹部っていってもよく入れ替わるし、覚えられないし覚える気もそんなにないしな」
「ほう、それで“名前付き”か」
「そう」
冷めたコーヒーの存在を思い出して啜るけどやっぱ冷めると飲めないな
「ライだ。諸星でもいい」
こいつ人の話聞いてないな?覚える気ないっていってんだろ。
それからライはL96と時々新しい名前付き、スコッチを連れてきた。そのうちスコッチは1人だけでも来るようになり、色んな話をした。ほとんど一方的に話しているのを聞いていただけだけど、明るくてなぜこんなところにいるのだろうと思うような人だった。
「なぁ、スイはなんでこんなとこいんの?」
「俺が聞いたい」
弟のようだ、と外の話を沢山してくれる彼を少なからず無愛想なライよりは気に入っていたが、それはお互い様である。
「人のこと言えないんじゃない?」
銃のメンテのたびに逃げるようにこの部屋に遊びに来てるだろ。頬杖をついてジッと見るが口には出せない。組織の中で任務嫌がってますとか言えないだろ。
それこそ裏切り者大好きマンのジンが飛んできてなんの迷いもなく引き金を引くだろう。あの人まじ暗殺とか向いてないよね。すぐ銃撃つもんね。気に入らない事あるとすぐコートに手ぇ突っ込むからね。癇癪持ちかよ。
笑って誤魔化すスコッチに「精々死なないでよね」と激昂を飛ばす。「お?心配してんのか」とまた茶化すように頭を混ぜくってくるスコッチが例え銃を向けられようがナイフで刺されようが俺には何も出来ないのである
名前付きであろうが無かろうが、いつのまにか顔見知りが居なくなっていくこっちの身にもなってほしい。
そのうち違う名前付きがやってきた。ベルモットが「使える子よ」って自慢げに言ってた彼らしい。金髪で色黒の彼は「バーボン」と名乗った。
「噂は予々。よろしくお願いします」
「どうも」
どんな噂なんだろうかと思いつつどうせろくな事ではないことはわかる。というか何がよろしくなんだろうか。全身を品定めされるような目線が辛い。ベルモットをチラリと見るとウィンクで返されたので助けてってのはこれっぽっちも伝わっていない。
「今日はご挨拶だけのつもりだったので」といい笑顔で去っていく彼はなんとなく“お前も所詮犯罪者だ”と言っていような笑っていない目が苦手で、“また”がないことを切に願う。
俺の祈りは虚しく、何だかんだと顔見せるようになった。
「ここによく来るのは誰ですか」「ラムって見たことありますか」「一目見たら忘れないって本当ですか」
「色んなおもちゃの設計図をあなたが書いたって本当ですか」
スコッチが、死んだ
殺したのはライらしい。ジンが不機嫌そうに言ってた。しかもノックだったんだって。ジンが笑いながら言ってた
ライはあまり姿を見せなくなってたから「へえ」って感じだけど、バーボンの、“お前実はスコッチがノックだったの知ってたんだろ”みたいな追及が辛い
知ってるわけもないので探られても痛くも痒くもないんだけど、
「スイ」って明るい声で呼んでくれる人がいなくなってしまった。でも確かに組織にいるには明るくて優しくて、外の人だって言われて納得した。いいなぁ。
『いつか水族館に連れてってやるよ』
うそつきめ
それから暫くして、今度はライが抜けたらしい。ライが行くはずの取引にFBIが来たんだって。しかもそのまま逃げられたんだって。情報源はもちろんジンである。ムシャクシャしてるからって人の髪の毛を掴むのはやめてほしい。
外に居たことのない俺がノックの可能性が限りなく0だからか、情報整理のためにかジンはよく他のメンバーの話をした。
余計な真似をしてみろ、お前もこうなるぞって暗に言ってるだけかもしれないけど
元々両親と妹が組織の研究員だったから逃がさない様に重しの意味で構成員だった明美が死んだ。
なんでもライを組織に入れたのが明美で、構成員といっても仕事をしていたから自由に外にいれたらしいんだけど、その分またどっかからノックを招き入れるんじゃないか、と危険視されたところに自分で「自分と妹を抜けさせてほしい」と持ちかけたらしい。
でも奪った10億を場所を言わなかったから殺したって言ってた。最初から殺す気だったくせによく言う。
明美とはずっと連絡をとっていた。妹が頭がいいこと、通っている大学のこと、色んなことを教えてくれてたのにどうして抜けたいって、ライを追いかけたいって言わなかったんだろう
言ってくれれば
いや、言ってくれても何もできなかっただろう。物を覚えるだけの俺はキュラソーの劣化版みたいなもので、結局俺が拐われたり逃げると意味がないのであんまり詳しい組織の内情や機密情報までは知らないし、外の様子もあんまり知らない。
それでも、何かできることがあったんじゃないか。何かきっと。
そのあと、明美の妹もいなくなった。誰も姉が死んでまで組織に居たいと思わないだろ。結局あの人のためだけの組織なのだ。ただ、どうやって居なくなったかわからないらしい。妹が、志保が親から継いで研究していた薬に関係あるようだったが、その薬をジンが外で人に使ったって言ってたのくらいしか知らなかった。
また何も出来なかった。なにも。やっぱり俺には何もできない。
「全員、お前を置いていったな。所詮囚われのお姫様は足手まといってことか」
ジンが今日も今日とて嫌味ったらしい。お姫様とかそう言う言い回しすきだよな
「別に連れてって欲しくないし。」
足手まといどころか重石だろう。銃の扱いが十分なわけでも情報収集ができるわけでも、逃げた先で他人の顔になることだってできない。何も、できない
それに組織を抜け出せたというより殺された奴ばかりである。“いい人間ほど早く死ぬ”というのは本当らしいと身をもって実感している最中である。
「スイにはここしかいるところがねぇからな」
好きでいるわけじゃないって言いたかったけど、唇が震えるだけで音にすらならなかった。ニヤニヤと笑うジンに言い返すこともできない。煙草の匂いが充満する。この匂いにも慣れてしまった。
志保が行方をくらましたことから俺の牽制に来たのだと思う。ジンも俺が逃げる勇気も技術も持ち合わせていないことを知ってて言いに来たのだ。そんなに煽られてもいう通りなので何も言い返せない憶病な自分はきっとろくな死に方をしない。
「ジンに虐められたそうね」
「...ベルモット」
開いていたドアをノックして入ってきたベルモットは、机に齧り付いて任務の途中でグチャグチャになってしまった古い手紙を直していた俺にコーヒーを渡してくれる。
「誰が言ってたの?」
「ウォッカよ。『ジンの兄貴がまたスイのところに行ってたみたいですぜ』ってね」
「ウォッカも引き止めてくれたらいいのに」
わざわざ声を真似てというか本人の声で言ってくれたけど、いらない情報だった。アニキをしっかり見張っていてくれ。
「だからベルモットがなだめに来てくれたの?」
「あら?そう思う?」
クスクスと笑う彼女は小さいころから相手をしてくれたけど結局実態の掴めない人で、俺の味方でいようとしてくれているのはなんとなく分かるけど、いざって時にはわからない不思議な人だった。
グリグリと幼い子どもにするように撫でくる彼女は最近外でお気に入りを見つけたのか上機嫌だ。少し前にライに狙われてカルバドスを置いてきたことからキャンティから凄い文句を言われて煩わしそうだったのに
「最近機嫌が良いよね。好きな人でも見つけた?」
「ええ、まぁそうね。近いうちに夢も叶いそうだわ」
冗談で言った言葉を肯定されてこっちが戸惑うが、美しい顔で笑う彼女に何も言えなかった。
彼女の大事な人にも俺はなれない。
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