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 キールが任務で失敗してFBIに囲われたらしい。キールもノックの疑いがかかってたから殺すかってなったけど裏でライが手をひいてて、でも車でライが死ぬのをジンが確認したらしい。

 ウォッカの説明が下手くそ過ぎて良くわからなかったけど、キールが戻ってきたこととライが死んだっていうのは確実らしい。


 全部らしいというのは俺は相変わらず引きこもっているので組織で起きたことであろうと蚊帳の外だから。


 いつのまにか色んなものが動いてていつも部屋にいるだけの俺は置いてけぼり。今更だけど、誰も一緒に死んでくれない。まぁ一緒に死んでくれる候補が犯罪者だらけだからもし心中するとしてもろくな死に方はできないだろうけど。


「ジンは?」


「アニキは違う任務だ」


 真先に嫌味を言いに来るのはジンなのでいつもそうしてくれるとありがたい。ふーんと興味なさげに返事をする


「スイが寂しがっていたと伝えておこう」


「ごめん、本当にやめて」


ついでにそのまま帰ってこないように言っておいてくれとは言わないでおいた。


 ライが俺と親交があったから伝えてくれたであろうウォッカにお礼を言う。なんだかんだ彼は情に熱いから心配をしてくれてるんだろう


 親交があったとは言え多少喋ったくらいである。ずっと連絡をとっていた明美でさえ知らないところで死んだのにライの死顔なんか全くイメージが出来なかった。


 ライが死んだ後くらいからバーボンがよく来るようになった。同じ時期に居た奴がどんどん居なくなったストレスなのか話の内容はほとんど愚痴だ。ジンの態度がどうの、ベルモットの機嫌がどうの、死んだスコッチはどうだっただの、ライは死んでない気がするだの一方的な話を作業の合間に紅茶を片手にボロボロこぼしてゆく。それでも紅茶は一度カップを温めるなど手間は惜しまない。いつも通りの動きをすることで落ち着くタイプらしかった。喋りながら頭を整理するタイプでもあるようだが肝心なことは漏らさない冷静的な人間だ。


「ちゃんと聞いていますか、スイ」


「ちゃんと聞いてますよ、バーボン」


 口調を真似して喋ると少しムスッとした後に思い出したようにこちらを向いて嫌な笑みを浮かべる


「あなたのおもちゃもよく出来てるようでよかったですね」


 ああ、やっぱりコイツは嫌いだ。少し前に志保が持ち出した資料の一部を丸ごと書き出せと言われて缶詰だった。その研究が進んでいるようでラムからもお褒めにずかったばかりだ。俺が仕事を嫌がっているとなんとなくわかっていて言ってくるあたり性格が悪い。


 バーボンは組織の人間が好きじゃない。ジンもベルモットも誰も好きじゃない。犯罪者を嫌悪しているし、関わりたくないのだと思う。与えられた任務はこなすがジンの様にバンバン殺すのではなくやることは必要最低限だ。


 なんとなくスコッチを思い出す。彼も何故ここにいるのか不思議なほど明るかったが、バーボンもなんでこんなところにいるのだろうかと思うほど犯罪者には向いていない気がした。


 そんなバーボンはやっぱり組織は嫌いだったらしい。実は生きていたライと仲良く大人数で組織にやってきた。


 施設の中は大混乱である。主にFBIと日本の警察が強制捜査に乗り込んできて組織の人間はボスを逃がそうと必死でそれじゃなくても銃をぶっ放すのが好きな人間達の集まりなので地獄絵図である。


 キュラソーが死んだあと幹部のセーフティハウスや何人かの本名を記憶しているのは俺だけになり、ジンに引きづられながら逃走ルートを突き進む。


「バーボンもノックだったんだね。ボスは?もう逃げたの?」


「はっ、よく回る口だな。ボスはとっくにいねえよ。テメェもさっさと歩け」


 置いていってくれればいいのに。ジンも誰かと対峙したのか傷だらけで本人のものか捜査官のものか血がベットリと付いている。かく言う俺も何度か銃弾がかすめて満身創痍だ。


「止まれ!」スーツを着た捜査官が銃を構えて出てくる。


「チッ」


 邪魔な俺を投げ飛ばし銃で応戦するジンの頭の上がミシミシと音を立てる。何度か爆発音もしていたし崩れるのも早くかもしれない。


 その間にも捜査官の応援は増えてジリ貧になってきた。ジンは逃げることを選んだ様で「来い」と立たされるが普段伊達に引きこもっていないので足に力が入らなくて再び引きずられる。


「あーあ、悪は滅びるって言うアニメとか漫画は本当だったんだ」


 聞こえてか聞こえないようにしてかジンは返事をしなかった。本当は俺を助け出してくれるヒーローがいると思っていたけどそんなのは幻想で俺は悪党側で倒される方だと気づいたのはいつだっただろう。本当は俺もレッドが良かったけど、善悪も正義も曖昧になる生活で憧れもクソも無くなってしまった。


「幹部の何人かはもう逃げてる。犬達の無駄足 だ。ざまぁねえな」


「そっか」


 爆発音が聞こえる。何人の下っ端構成員が捕まったのかも死んだのかもわからない。ジンの言う言葉のが本当なのか見得なのかもわからない。


ミシリ


 嫌な音を立てていた天井がついに落ちた。ジンは咄嗟に避けたが足にほとんど力の入らない俺はそうもいかない。よろめいて転ける。音を立てて落ちてきた瓦礫が足に突き刺さってゆく。


「ぐうぅう」


 激しい痛みと熱で汗が出て奥歯がガチガチとなる。心臓がうるさい。獣の様な呻き声を上げながら耐えながら見上げるとジンは一瞬表情が揺らいだかと思ったがすぐにいつもの冷徹な顔をしていた。


「お姫様は城から逃げるのが御伽話で一緒に堕ちるのが定石か」


 そうかもしれない。ずっとここで生きてきた。お姫様という言い回しは気に入らないが逃げ延びても同じことの繰り返しだ。そういう運命なのだ。そう言いながらも仕方ないという風にジンが俺の体を引っ張り出そうとするが上にのしかかった瓦礫の方が重い。それに動かされると傷が広がるのか叫び出したくなるほど痛いのだ。


「チッ」


 ジンが体を引っ張り出そうとするがびくりとも動かず舌打ちをする。俺のせいじゃないのに。いや、早く走れない俺のせいか。そうしている間に遠くから「こっちだ」という声と足音がする。


 近づいてくる足音にジンは銃を持ち角で待っていると急に笑い出すのでついに頭でもおかしくなったのか。


「久しぶりじゃねぇか、ライ。ネズミはやっぱり走り回るのが好きみてぇだな」


 追いついたのは、ライだったのか。血を流し過ぎたのか体の力が抜けていく。瓦礫を退けようと動かしていた手はもう動かない。


「ふっ、愛しい恋人が眠るまでを見送らないと紳士とは言えないだろう?それに今はお前の方がネズミが似合っている」


 袋のネズミってか、笑えない。ライは瓦礫の裏側にいるようで潰れた俺のことを認識してはいないらしい。ピリピリとした空気が流れるなか忙しなく近づいてくる足音が増える。向こうの増援か、こちらの応援か。


 まぁどう考えてもこちらの応援ではないだろう。ジンも足音に気づいたのかちらりとこちらに視線をやる。もういいよ。


 下半身が熱くて筋肉が少しでもピクつくたびに悲鳴を上げたくなる様な痛みが走る。全身を巡る様にうるさかった心臓の音が聞こえない。力が入らないのに緊張しているように耳が研ぎ澄まされる。


 もういい。よく生きた。クソみたいな両親から生まれクソみたいな場所ではあったがここまで生きてきた。間接的にではあるが人も十分殺した。もういい。


 視線を横に振ったのが伝わったのかジンはライに向けて何発が撃った後、通路の奥に走って消えてゆく。最後に見るのがジンの綺麗な銀髪だなんてやだなぁ。


 ライだろうか、走って追いかけてゆく足が見える。彼は生きていた。よかった。さらに追いかけるように捜査官の声と足音が聞こえる。そのうちの一人が俺に気づいた様で誰かに何か言っている。もういいよ。目を開けておく元気もなくなって、声もほとんど聞き取れなかった。あれだけ痛かった下半身の感覚が無くなって自分でももう長くないのがわかる。


 バーボンが見ていたらざまぁみろと笑うだろうか。もうバーボンじゃないんだっけ。彼は組織も人を殺す道具を作った俺も嫌いそうだった。彼は正義の味方でレッドだったわけだ。そりゃあ俺を憎んでて仕方ない。


 悪は滅びる、報いを必ず受けるってテレビアニメの中でヒーローが言っていた。その通りだった。だからとらわれ続けた施設の中で一人死にかけてる。誰が連れてってくれればよかったのに。先に死んでいったやつはどうして置いていったのだ。


 俺を恨んでるであろう相手ですら俺の側にはいない。つまりざまぁみろと言ってくれる相手すら本当は居ないのである。顔にまで伝ってきた血がベタついてまるで地面に張りついている様だ。最後の最後まで逃がさないと言われているようで腹が立つ。俺だって意地くらいある、と思ったが逃げ出す勇気もなかったやつだ。ふさわしい最後かもしれない。


 体の力が抜ける。恨み言すら浮かばない。


意識が遠のく


等相馬すら巡らない


暗い


寒い


怖い


「ーーー」


誰かに呼ばれた気がした


 ねえ、もういわないから。一生のお願い。だれかたすけて。死にたくない。こわい。だれか。だれか。...誰が?


返事はなかった



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