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 握力と反復横跳びはお察しでした。知ってた。つかザ•ヒーローって感じだった黒もじゃくんが今のこと最下位、つまり除籍処分だ。


「どうすんのかね」


「名前はあいつの個性知ってんの?」


「まぁざっくり?」


 本人も不味いと思っているのか何かブツブツ言ってるのが聞こえる。爆発的な力があってもいちいち行動不能になってみろ、格好の餌だ。敵は待ってはくれない。時折あの時折った腕を撫でていて本人の中でもトラウマになっているのだろう。どうすんだ。


 最後の種目であるボール投げで黒もじゃくんの番が来る。円の中に入った彼は神妙な顔をしていて「あ、これは捨て身なやつだ」と気づいてしまった。コイツ体がどうなってもいいからその場を凌ぐつもりか、いい加減にしろ。実戦でそれは通用しない。捨て身の攻撃がどれだけ味方にダメージを与えると思っているのだ。


 ヘルサレムズロットでの日々を思い出して腹が立ったので止めに入ろうとすると相澤さんに睨まれる。一歩出かかった様子を見て「名前ちゃん?」と聞いてくれる梅雨ちゃんに「なんでもないよ」と返す。相澤さんが黒もじゃくんの個性を消したことによって結果は46mと普通。


「誰かに助けてもらうつもりだったのか?」


 相澤さんが黒もじゃくんに言いたいことを言ってくれているので段々と落ち着いてきたが今後まじでなんの算段もなく飛び出して行かないか不安でしかない。2回めの投球はどうするのか。さっきと同じフォームで大きく振りかぶるが力の流れを感じない。諦めたのか?


 空気を破るような音がする


 指先に力を集中したのか!今の一瞬で!さっきまであんなにも追い詰められていたのに。

 相澤さんもコイツやりおる、みたいな顔をしてて生徒もざわつく。さいしょからやれよって聞こえた気がするけど多分黒もじゃくんの精一杯が今だ。そしてその精一杯を成長させたのも今だろう。


「どうしよう梅雨ちゃん、俺若い子の成長についていけると思う?」


「名前ちゃんも充分若いわ」


 いちいち返事をしてる梅雨ちゃんがかわいい。みんなが感心している中でヤンキーの爆豪くんは気に入らないらしい。なんでアイツがあんなことできるんだって突っかかって捕縛布に絡まってる。つかなんでお前の方が追い詰められた顔してんの?


 相澤さんが最後に除籍処分は嘘だよって言ってたけど絶対ガチだったじゃん。何はともあれ体力テストは黒もじゃくん保健室に行かせて解散、着替えて教室集合。初めての学校ライフでウキウキしてたのにどっと疲れた...。今日はコンビニ弁当にしても誰も怒らないと思う。

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