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「相澤さんが担任って聞いてないよ」


「言ってないからな」


 このやりとりこの間もしなかった?

 結局こういう疲れた日こそ体を労るべきなんじゃないかと急遽コンビニからスーパーに移動して、この間買ったレシピ本の“簡単 うまい”に書かれているレシピの材料を片っ端から買って煮たり焼いたりしているとガチャリと隣に人が帰ってきた気配がしたので無理やり引っ張り込んだ。バカ野郎、ストレスだかテンションで俺一人で消費できる量作ってないんだよ。


「名前、緑谷をとめる気だっただろう」


 だいぶ使えるようになってきた箸を置いて汁椀を手に取る。味噌スープはいいぞ。適当に切った野菜を入れても合うし。


「あー、だって捨て身だったろう。そんなのが現場に出てどうする?大人数に囲まれたら?1人倒して自分も死ぬのか。誰かがフォローに入るにしても守りながら戦うのがどれだけ窮屈だと思ってる。自分の安全に責任も取れないばかは好きじゃない」


 それで何人死ぬのを見たと思ってる。それで何回あの人が窮地に立たされたと思っている。

「まぁ、最後のは妥協点ってとこ?伸び代に期待かな」

「ほう」

 視線を上げて意外そうにこっちを見る。あ、まずったかな。記憶喪失ってなってるんだっけ。その方が説明が面倒くさくなくて、バリバリ命張るような場所で異形のくそどもを牽制しつつ生きてましたし、実は若返っただけで実年齢これじゃないんですーって言ってないわ。そりゃあ何言ってんだコイツってなるわ。


 やべーって思ってちらりと様子を伺うが相澤さんは何も言わずに唐揚げに手を伸ばす。


 この人はこうやってあまり詮索をしてこないので心地いい。合理性だなんだ言うがヒーローとして活躍するだけの正義感と思いやりもある。こういう大人がいて成長していける彼らは幸運だ


「今度マイクも呼んで鍋やりたい、鍋」

「時期過ぎたんじゃないか?」

「だからか。見切り品のスープの素買ってきた」

「声はかけとく」


 日本食は美味しいけれど味のない白米はどうも苦手で、白米は相澤さんが食べる分だけ炊いておく。食費は半分出してくれるのだが包丁を握る姿はまだみたことがない。マイクは簡単なおつまみとかは作ってた気がする。


「風呂は?」

「ちゃんと湯船沸かした〜、初日から体動かされると思ってなかったからバテバテですよ」

「ははは」


 ご馳走さま、と手を合わせて食器を片付ける。片付けは相澤さんがしてくれるので下着とパジャマを準備してバスルームに向かう。バスタオルとフェイスタオルを準備していて、ふと


「相澤さーん、風呂入ってくー?どうせ沸かさないんでしょー」


 シャワーだけで済ますであろう相澤さんに声をかけると「あー」と悩んでいる声がしたあと後で着替えを持ってくるとのことだった。部屋が隣だと便利いいよな。


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