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 地鳴りの様な音と衝撃による風。脳無のクッション性を無い物とするべくオールマイトがひたすら拳を打ち込む。邪魔も出来ない。圧倒的な力と精神力を見せつけられて誰も動けなかった。タイミングを見て手まみれのガキを制圧しようと思ったがついじっと見てしまう。でもなんかオールマイト血吐いてないか。流石に脇腹を掴まれたダメージが残っているのか。それでも渾身の力を込めて放たれる拳に脳無が少しずつ圧され重心が崩れる。

「ヴィランよ。こんな言葉を知っているか‼?Puls ultra!」

「コミックかよ」

「すっげ」

 連打によって重心が後ろに傾いた脳無に渾身のボディが炸裂し勢いそのまま巨体の脳無が轟音と共に天井を突き破り飛んでゆく。オールマイトがも満身創痍という感じだが残ったのは黒モヤワープとガキだけだ。もうここは大丈夫だろ。

「轟、俺ちょっと他のとこ見てくるわ」

「あ?ああ」

 地面を蹴り静かになった各エリアに生徒が残ってないか見回る。あらかた大丈夫そうだな。

「あ」

 山岳ゾーンに飛ぶとほとんどのヴィランは倒れているがその中に1人デカイやつが立っているのが見える。その少年に両手をあげる耳郎と八百万。

 立っているヴィランの頭に着地、というところで体を実体化させて自分の質量を増やす。

「何やってんの?」

 突然の重みに首の支えが効かなくなり頭を前のめりにさせながら倒れる。もうちょっと耐えてくれるって思ったのにこのままじゃ一緒に地面だ。頭を蹴って2人の前に着地する。てってれー。

「あーあ」

「あら」

「え、何?邪魔だった?」

 倒れたヴィランの方を見ながら2人が口を押さえるもんだから振り返って確認すると心ここにあらずみたいな目が彷徨ってる上鳴がヴィランの下敷きになってた。あらあら。2人と同じように口に手を当てる。お前そんなとこにいたの。

 3人で上鳴を引っ張り出そうとするけど体格がいいせいかヴィランが重くてなかなかじゃない。一生懸命腕引っ張ってんのに上鳴が「うえー」とか言ってやる気を削いでくるからそのままでいいかな。

「せーの」

 力を合わせて引っ張るとずるっと上鳴が動くが、その振動のせいか上の乗ったヴィランがピクリと動く。思わず2人を庇う様に手を広げる。肘を曲げてのそりと起き上がろうとするヴィランにどうしようかなと思っていると的確にそいつの肘と肩が撃ち抜かれる。狙撃?どこから?

 射線を目で追うと出入口の方に人だかりが見える。やっとか。ネズミのとこ行ってからだいぶ経ってるはずだぞ。何してたんだあのネズミまじで。集まったプロ達であろう人だかりを見て多少安心したのか急に体が重くなる。

「あー、疲れた」

「名前の緊張感のなさがすごい」

「逆だって〜、ずっと気を張ってたから疲れたんです〜」

 駆けつけたプロヒーローたちの数を見てもうこれは制圧しきるかヴィランが引くかのどっちかだろうとどかっと座ると耳郎が笑いながら言うがそういう耳郎も横で安心した笑みを浮かべる八百万も相当緊張していたのか力が抜けている様だった。まぁまさか災害救助訓練が戦闘になるとは思わないよな。ほへーとか言ってる上鳴は早く正気に戻っておいで。
「あ」

 人数集まったのはいいけど、手まみれのガキは相澤さんの分もあるし逃げられたら次もまた責めてきそうだから殺そうと思ってたのにあの人数のプロ居たら無理じゃない?

「どうかされましたか?」

「や、なんでもない。先向こう行ってるから上鳴よろしく」

 ムカつくのでとりあえず一発くらいは殴っとこう、と地面を蹴る。間に合いますように。

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