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 凄いがんばって戻ってきたのにメインのガキが捨て台詞みたいなのを吐きながら黒モヤに吸い込まれてる途中だった。一瞬透化して付いていくか?と思ったが出た先で帰りに迷子になりそうだし、狙撃されたのか手と足を撃ち抜かれてたっぽいので黒モヤにズブズブと消えていくのを中指立てながら見送る。向こうだったらチェインとかザップが一緒に中指立ててくれるのにこっちの子はいい子ばっかだからそんな下品なことしなくてちょっと寂しい。

 気を失ってる相澤さんを梅雨ちゃんから受け取って地面にゆっくり下ろす。腕はぐしゃぐしゃだがこんなとんでも世界だなんとかなるだろう。

 集まったのはプロ達によって生徒の回収と無事の確認をする。ガクッと崩れたよう見えたオールマイトを見ていると近くにいる緑谷を心配して切島が走り出すのを緑谷が焦った顔で止めようとする。それに違和感を覚えたのと脳無と殴りあっていた時の吐血。セメントスが切島と緑谷を接触させないかのように作り出した壁が違和感を確実なものにさせる。

 隠されると気になるタイプなんですよ、俺は。

 セメントスが作り出した壁の上まで飛ぶとそこにしゃがむ。煙の中から出てきたのは緑谷とは違う金髪のひょろりとした男。

「なるほどねぇ」

 緑谷を見ると目があった気がした。実体化してないけど。オールマイトの姿を見たので満足して相澤さんの元に戻る。地面に座って様子を見ているとネズミが予め呼んでいたのだろう、警察官と救急隊がタンカを持ってやってきて相澤さんを運び出す。

「腕ぐちゃぐちゃなんでゆっくりお願いします。頭も強くうってるかも」

「わかった。君は怪我はないかい?」

「や、どこも。あそこで倒れてるもじゃもじゃの少年が足おってるっぽいであの子も」

「ありがとう」

 救急隊員と話をしていると後ろから足音がする。

「マイク遅い」

「ぐはー、厳しいねぇ!これでも最速で駆けつけたわけよ」

 ぐりぐりと撫でてくれるマイクの声は飄々としているものの目が据わってる。こええな。

 とりあえず教室に戻ってくれと刑事さんに言われてぞろぞろと戻る。緑谷とオールマイトは仲良く保健室らしい。とりあえず怪我と状況の確認。確保したヴィランと生徒がのした数の確認など諸々が終わった頃には夜も更けて保護者を呼べる生徒は一緒に帰宅、実家が遠方で難しいものは人数を固めての下校となった。現場検証とか生徒のメンタルのあれこれで明日はお休みらしい。

 どうしようかな、とりあえず一旦帰るって感じで相澤さんが運ばれた病院まで跳ぼうかな。俺の保護者だし。頭を悩ませていると教室までマイクが来て一緒に病院に行くことになったよ。まぁ第二の保護者はマイクっぽいもんな。

「名前、大丈夫か?」

 病院までの車内で改めて聞いてくれる。かすり傷もないよと腕を出して

「むしろ暴れ足りない」

というとガハガハと笑ってくれて楽。若返って見た目が子どもだとこういう時しんみりされそうで面倒臭いかなと思っていたらマイクはシリアスな場面でも割といつも通りに接してくれるので警察官の取り調べよりもだいぶ気が楽だ。なんとも思ってないのに心配されすぎるの鬱陶しいからね、まじで。こんなんヘルサレムズロットじゃ日常だったから、なんて当たり前が誰にも通じないのが面倒臭くてちょっと寂しい。

「相澤さんが退院したら心配かけられた代でご飯奢ってもらおう」

「お、何が食べたい?」

 
「今はジャンクフード。めっちゃハンバーガーの気分」

「帰りはマックだな」

 病室に着くと治療が終わったのか包帯にぐるぐる巻にされた相澤さんが寝ていた。医者の話によると命に別状はないらしい。骨はぐちゃぐちゃだったけどなんとかなるってすごいな...。明日改めて面会時間に来ようということになって帰りはハンバーガーとポテトでした

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