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 彷徨い歩いてたどり着いた街は人が多くて目眩がするようだった。体を無理やり変えられて五感が鋭くなったのかすれ違った誰かの血の匂いに体が反応して誰かを襲いはしないかと気が気ではない。


 時折、着物とも洋服とも言えぬ黒い格好の刀を挿した若い者が忙しなく藤の紋を掲げた屋敷に入っていくのが見えどこかの武家だろうかと思っていたら、どうやら鬼滅隊という組織があり、人ならざる者を斬っているそうな。


 俺も、殺してもらえるだろうか。


 首を吊ってみても、滝から落ちてみようとも気がつけば元に戻っていた。あまり出会わないが鬼に出会った時は変な技を使われて気づけばモツを曝け出してぐちゃぐちゃだった。「あまりの弱さに同じ鬼だとは思わなかったぞ。まあこれでも食え」と軽快に笑いながら誰かの足だったものを投げられた時は思わず吐いた。その時、無惨が俺を探していることを聞いた。

「いらんのか」

俺に足を放ってきた鬼は勿体無いと言いながら拾ってバリバリと食ってしまった。

「なんでもあのお方は太郎という鬼を探しておられるようじゃ。なんでも山奥で見つけた人間を鬼に変えてその集落の人間を食い散らかすかと思うたらそうでもなく、消えたそうでな。何処かにホクロがあるというておったが探す気がないと忘れるのう」

 全身が強張ったように緊張したがどうやらこの鬼はその太郎が俺だとは気づいていないらしい。鬼が密集すると人間が減るからと早々に追い出されたことをこれ幸いと街まで足を伸ばしてきたのだ。

 街に出て“鬼滅隊”というものの存在は知ったもののその隊員と思われる人に遭遇することもなく街を転々とする。


 鬼滅隊について聞いて回ってわかったことは、鬼を倒す術を持っていること、黒い隊服を着ており、柱と呼ばれる幹部たちは滅法強いらしいこと、家族を殺されて入った者が多いこと、隊員は俺が思うより少ないこと。

 一方の鬼についてわかったことは人間を食べること、火の光に弱いこと、人に混じっていること、元凶が無惨だということ。


 彼はどうして俺を鬼にしたのだろうか。たった一晩泊めただけで、そのまま帰れば済む話である。腹が減ったのなら食ってしまえばよかったのだ。結局思惑は本人しかわからない。


 訪れた街をぶらりと歩く。飯を食わないでもいいので旅費は安く済み、簡単な力仕事を手伝っては路銀に変えていた。活気のいい声が聞こえる。露店通りに出たのだろう、人の往来が増える。


 その時、人混みの中に黒い服の上に市松柄の羽織の子供とすれ違う。黒い服?


「待って!君」


 振り返った彼は目を大きく見開いて刀が挿さっているであろう腰に手をやる。だが周りの人の多さに抜くかどうかを迷っているようだった。

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