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 炭治郎は、手紙の返事が来る間と任務の合間を縫ってよくあいにきてくれた。

 田舎で爺様、婆様と暮らしてきたから街に来るのさえ鬼になってからが初めてだったが日中は出歩けないので炭治郎がする日中の街の話がとても耳に心地よかった。

「禰豆子」

 口輪をした髪の長い少女は小さな頭を撫でると目を閉じて微笑む。禰豆子は炭治郎が常に背負っている木箱の中にいる鬼にされてしまった唯一生き残った妹だ。彼女は鬼を敵だという暗示がかかっているらしいが、人も食わずいた俺にほとんど鬼の気配がないからか、弱いからか、その爪を向けることはなく頭を撫でさせてくれる。呼ぶとじっとこちらを見て近くに寄ってくるのが可愛くて何度も名前を呼ぶ

「よかったなぁ、禰豆子」

 そう言って穏やかに微笑む炭治郎の方が俺よりもずいぶん年下だろうに優しく、穏やかに強くて鬼にされてからずっと暗闇を走り回るような、どこにぶつければいいかわからない泣き出したくなるような不安と怒りを忘れさせてくれた。

 このままずっと時が続けばいいと思っていた矢先、カラスが鳴いて「手紙ガ来タ」と知らせる。

 待ち望んでいたはずなのに緊張して全身に力が入り禰豆子を撫でていた手が止まる。「どうぞ」と手渡してくれる手紙を「君が送って君宛に届いたものだから、君が読んで教えてほしい」と言うと真剣な表情でゆっくりとうなずいて紙に目を移す。

 彼から目を離して誤魔化すように撫でていた手を動かすとにこりと微笑む禰豆子に俺あてだという手紙に迅る心臓が少し落ち着いた気がした。

「太郎さん。お館様が、是非一度お会いしたいと」


 じっとこちら見据える赤い目がどうしますかと聞いてくる。鬼滅隊の頭にとって鬼である自分は憎むべき相手で当然自分の懐に入れる様な行為は周りが反対するのではないだろうか。ただ、のこのこと殺されにいく様なものではないか。でも、殺すならば今、炭治郎に命じれば済む話だ。向こうの考えていることがわからない。禰豆子を元の人間に戻すために鬼滅隊も動いているとして同じ様に人を食わない鬼に対する興味があっても不思議ではないということか。


「炭治郎はどう思う?それでいいのか」




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