1


 しばらく休みなさいと言われて元々あまり外に出ることがなかった私はことさら外出がなくなり国の様子を知る機会がなくなってしまった。妹が「ビビ様」と追いかけられている声はよく聞こえる。人懐っこい彼女が近衛兵を撒いて遊びに出かけたり、時には近衛兵の背に乗って空を飛んでいるのを窓から見てどうして自分はああなれなかったんだろうと思う。明るくて物怖じせず誰とでも仲良くなれる様な妹。かたや近衛兵もつけられず医者と本と壁の中で過ごす私。妹が言ったら信じてもらえたのだろうか。


「私も空が飛べたなら。私が彼女なら。私も」


 この国の守護神たる動物の能力を持った彼の背に1度だって乗ったことはなかった。ペルもチャカも可哀想な子どもを見る目でいつだって私を哀れむ。私は私を一度も哀れだと思ったことはないのにまるで本当に可哀想に思えてくる視線がいたい。聞いて欲しいだけなのに。思いの丈を綴った日記は誰にも見せられないものになってしまった。ぐちゃぐちゃと塗りつぶすページが徐々に増えていく。こうやって俯いてばかりいると本当に気が病んでしまいそうで、涙と書き直した跡でぐちゃぐちゃになった証拠をもう一度綺麗に書き直す。医者にもバレないように少しずつ修正して、あわせて文献と他国に依頼した鑑定も書き足す。こうしてしがみ付くから皆離れてゆくのに、もはや心の支えだった。


 いつからか妹を気軽に呼べなくなった。


 家族での晩餐ではいつも王女が今日遊んだ話をする。この地域はあそこの住民は。いつも楽しそうだった。政治の会議では大方の話が決まるといつも「ビビ様は活発で困る」「王女らしく国の把握をされてらっしゃるのだ」「ビビ様は」「ビビ様は」いつだって彼女が中心で、いつだって彼女の周りは輝いている。本当に私と同じ血が通っているのだろうか。妹、というよりも『ああ、彼女が王女になるのだ』漠然としたしかし確信めいた気持ちだった。だから「ビビ」と呼んでいた彼女はいつしか「王女」にかわった。


 食事を一人でとることが増えた。まるで私が存在しないかのように王女の話をする彼らに耐えられなかった。気遣うように私の部屋にやってきては話をしていく妹の優しさも素直に受け止められくなってきていた。彼女は何も悪くないのに。それでもずっと城にいる私には彼女から聞く話が唯一国とつながる時間であり、状況の把握に当てることができた。時間の経過と、彼女からの話では微々たるものではあるかもしれないが着実に薬の影響が出ているのだろう、干ばつ地域が増えているようだった。それと共に焦りが迫る


 私はこの国の将来を担う王子でありこの国を愛する国民だ。数日後に控える私の誕生日に最後のチャンスを賭けることに決めた。成人の儀が終わり王と近衛兵だけになる時を狙って最後の賭けにでよう。


 そして、頭に乗せられた小さな王冠と渡された鉱石で出来た小さなナイフを受け取り、王冠をまた王に捧げた。一つ歳をとり儀式でも正式に大人だと認められた。よもや簡単には信じてはもらえまいとわかっている。しかし。頭を垂れたまま


「時に陛下。この城下だけに続く雨は不自然でございます」



- 30 -

*前次#


ページ: