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賭けは大敗だった。


 王の親しい友人のところへと療養のために出ることになった。私が得たのはアバラスタの病んだ第一王子という称号でおそらくこの先私がこの国の政治を背負うことはもうない。あの時、全員が私を見ていた。あの目を一生忘れられないだろう。


 ボロボロになった自尊心は療養を拒否するだけの力もなく涙も出なかった。無力感と誰にも必要とされていない寂しさと驚嘆と嘆き、哀れみの混じった視線の恐怖とでいっぱいいっぱいだった。いつかはきっとと思っていたがそれさえ叶わぬとわかった今、初めて死にたいと思った。それができない身分だと言うことも同時に理解していた。死んでしまいたい。誰にも必要とされていない。第一王子が自殺だなんて迷惑はかけられない。この国にはいつでも笑っていて欲しい。消えてなくなってしまいたい。叫んで喚いて逃げ出したかった。しかし逃げる場所などどこにもなかった。心打ちを話せる友も家族も居なかった。産まれてこなければ。ビビが第一子であったなら。誰か1人でも信じてくれる人がいたのなら。私の背にも羽が生えていたら。自由にどこまでも飛んで行けたなら。


 考えることをやめてぼんやりと無気力に過ごすうちに話は進み、私の知らぬところで出発日が決まった。その日は王女の誕生日で「ああ、居なくなることも国民に知られなくないのだ」と理解した。王は決してそのような人ではないから誰かの申し出だったのだろうと分かるがその時はただ、棄てられたということだけが辛かった。


 気持ちのいい程の晴天の朝だった。王女の誕生日を祝うに相応しくどこまでも青が広がり、飾られた城、湧き立つ国民、伝統の音楽と踊り。どれも愛してやまないものだったもの達。その全てが灰色のフィルターにかかったように色あせ何も感じなかった。何故お前は自由に生き生きとしている。何故そこにいるのはわたしはじゃないんだと王女を憎んだこともあったがそれももうどうでもよくなってしまった。全ては信頼のないわたしが悪いのだ。


 終始ぼんやりとしたまま準備をして港について行く私に誰かが何かを言ってたような気がしたが聞き取れなかった。どうせ私のためのことはじゃない。それだけははっきりわかる。暖かい風が舞い頬を撫でる。今日、私は愛する国を経つ。お前の愛は一方的だったと蹴られるように追い出される。兵も従者も誰も付いては来ない。向こうの国で何もかもを受け入れる準備ができていると聞かされたから。カバン一つ。見送りに王も王女も来なかった。顔なじみの近衛兵だっていない。淡々とした受け渡し。


 アバラスタの王位継承者第一王子名前は今日、死んだのだ。


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