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明けてましたおめでとうございます。


 前の部署で独り身で若いってこともあり、お正月が夜勤でってことはあったけどこんなにボロボロなのは初めてかもしれない。前は先輩がお寿司とか買ってきて冷蔵庫に入れてくれてたりしたしなんだかんだお正月感というか感じてたんだけどもうね、ダメ。なんか調子悪いなーとは思ってたんだけど年末に検挙した事案の報告書と裁判用の資料の作成が何件か重なってさらに今降谷さんから指示された内容で部署が動いてて風見にいちゃん達先輩らが出てる案件の情報整理。下っ端で尚且つ一事案が終わって書類作業の俺に全部が回ってきたということさ!体調悪いとかね、いってらんないの!帰りたい!


 ボロアパートの冷蔵庫に突っ込んだステーキ肉の賞味期限大丈夫だったっけ。冷蔵庫開けたのいつだっけ。


 暖房ガンガンに付けた部屋で悪寒を抱えながらまとまらない思考でディスクトップと睨めっこしてる。パソコン疲れの目と涙の膜が貼っていることにより作業効率は死ぬほど悪い。おうち帰りたい。


「おわ、終わった。内容とかちょっと凡ミスとかある気がしないでもないけど提出する分はとりあえず終わった。凄い、俺偉い。太郎は天才」


 年が明けて2時間弱。一人で自分を労う。まじ俺だけでよかった。もしインフルだったら今頃全員にうつっていたことだろう。スマホがピコピコ反応してたことを思い出して数時間ぶりにメッセージアプリを開くとなんかいっぱい通知きてる。でもごめん視界ぶれてて読めないっていうか頭に入ってこない。年始って救急外来開いてたっけ


 近所の病院を検索してジャケットを着る。寒くて職場にずっと投げていたカーディガンを重ね着してスマホをポケットに突っ込む。気休めに窓を開けて換気、戸締り。PCは全部消した。やばいUSBはロッカー、エアコンも切った、財布は鞄から出してない、保険証もある。


 確認のためっていうのもあるけどもう一人で何やってんだろとか思って全部口に出しながら確認してドアを閉め、鍵をかける。


「お疲れさまです。お先に失礼します。良いお年を。...?今年も?よろしくお願いします?」


 隣の部屋でまだ残ってる別チームの人たちに声をかけるけど挨拶ですら大混乱。でも皆疲れてんのか「はい〜」ってこちらを見ずに普通に流された。顔はげっそり隈はたっぷりで、公安でずっと働いてたらこういう正月に徹夜みたいなのも慣れんのか。嫌だな...。そういえば転職サイト最近見れてない


 人気のない廊下を歩くと結構あちこち電気がついてる部屋がある。警察庁ブラック過ぎない?交番じゃないから夜勤ないよね?ってことは電気はみんな徹夜組?こっわ。仕事のことやら食べ物やらニュースのことなどが浮かんでは消えるのでもう脳がダメ。考えがまとまらないってこういうこと。真っ直ぐ歩いてるつもりなのに壁やら手すりに体ぶつけるので体もダメ。


「あ、ちょうどよかった太郎」


 向いから歩いてきた人に呼び止められる。バカヤロウちょうどよくねえんだよ俺は病院に行くんだ。


「お疲れさまです」


 止まらずに軽く挨拶する。礼儀もクソもないけどね、もうね脳がダメになっちゃうから。止まらずにへへと笑って通り過ぎようと近づいて視界に入るこの、金髪。嘘じゃん。

もうね、条件反射。パブロフの犬。正しくは国家の犬だけど


「どうされたんですか、降谷さん」


 すっと立ち止まって気持ち程度背筋が伸びる。きちっと立つのがしんどいよう。


「頼んである案件の資料は君がまとめていると風見に聞いたんだが今もってるか」


「あー、部屋戻ればあります。少し待っていただけますか?もってきます」


 ほら、俺普段よくできる期待の新人だからどんなに張り倒して帰りたくてもやっと出てきた部屋に踵を返す。でもこの全貌をいつだったか連絡先を交換した少年探偵に愚痴を送ることを心に決めた。


「大丈夫か?フラフラしてるぞ」


 なんとか鍵を開けてとってきた資料を渡す。鍵穴に鍵が入らなすぎてキレるかと思った。ガチャガチャガチャガチャうるさいまま一行に鍵が開かないから気になったのか降谷さんが顔をじっと見てくるが正直大丈夫じゃないので帰りたいです、とはいえない


「はは、ちょっと調子悪くて。なのでお先に失礼しますね。にいちゃんに会ったら開いてる時間で実家に帰れって伝えてもらってもいいですか?既読つかなくて」


 実家からかかってきた電話は何故か風見にいちゃんも一緒に帰ってくる前提だった。まぁいいかと思ったけど多分休みねえんじゃね?お正月終わってるわちくしょう。


 急に押し黙ったイケメンが更にまじまじと顔をのぞきこんでくる。その上なんか首触られてる。手が冷たくて気持ちいい。でもイケメンが立ち去ってくれないの下っ端の俺は動けないのよ。のちのち上司から叱られるのはごめんである。


「...」


 無言で腕を引っ張られてどこかに連れて行かれるが待って、お願い。一生のお願い。病院行かせて。静止の言葉もなんのその。力の入らないといっても成人済み男性をずりずり引きずっていく筋肉ゴリラ。その顔でその力は詐欺では???こわ。


 地下の駐車場まで引きづられてシートを倒した助手席に投げられたらもうダメだった。ほぼなかった体の力がゼロ。起き上がれない。サン値もやばいので何を口走るかわからないので降谷さんに失礼のない様に口を紡ぐ。


 起きなくちゃとか上司の前じゃんとか色々考えてたけど脳みそが限界に来たのかそのまま動けない。なんでこんな走り屋の車乗ってんの?見た目とのギャップしかない。というかめっちゃ頭ぐわんぐわんしてたけど脳みそダメになってないよね?来年昇進試験受け取って運転席にいる方から言われてるんだけどこの人が脳みそダメになった瞬間見てるからもう諦めてくれるよね!?


 愚痴ったら「お察しします」みたいな顔で笑う少年探偵に会いたい。好きな子いるらしいけど今から将来有望じゃん?俺のことを養ってほしい。


 ほとんどない意識で「結婚してくれ少年〜」ってなんか半分夢見で言ったのが自分でもわかる。あっ、降谷さん急ブレーキやめて死ぬ。こういう時すぐ有給くれるって言ってたアメリカ行きもちょっとまじで考えようかな。赤井さんまだ日本にいるけど。


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