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知らない天井だ。


 嘘。実はさっきから意識あるので病院で点滴受けてるってのはなんとなく把握してる。何が怖くて起き上がれないかっていうと主に降谷さんですよね。


 熱が下がったのか冷静な思考回路を取り戻した俺は降谷さんの車に乗ったことをちゃんと覚えてる。風見にいちゃんが「体調管理は基本だ。寝ろ、飯を食え」って怒られてることも知ってる。それを全部疎かになった結果今の状況ってのもわかってる。こわい。今起き上がってまだ降谷さんが居たらどうしよう。え、埋められる...?桜の肥やしとなれ的な。


 人の気配がして俺の腕あたりで何かやってる。まだ寝てますよーって感じで薄目を開けて様子を伺うと白い服だったのでオッケー、クリア。しっかり目を開けて少し動く。今起きましたよって雰囲気を出しとく。


「目が覚められましたか?」


 看護師の柔らかい笑みが眩しい。凄い。最近ずっとやさぐれた顔のピリピリした人たちとしか接してなかったから癒し効果が凄い。彼氏いるのかな。連絡先聞いたらまずい?ときめきというか一気に浄化されたような気までする


「はい。どれくらいで終わりますか?」


「うーん、あと20分くらいですかね」


 ちらりとポケットにつけられたナースウォッチと点滴パックの袋を見比べた可愛い彼女は当然爆弾を、投下した。


「お連れさんがお待ちですよ。今呼んできます」


「あっ、いや」


 俺の静止も虚しく笑顔を残して去る後ろ姿も可愛いでも待ってお連れさま誰。ワンチャン降谷さんが連絡して風見にいちゃんがきてるって信じたいお願い。降谷さん忙しいよね?ね?俺に構ってる暇ないよね?ね?看護師が去っていった方向に念を送る。頼むっ!お説教コースだけは!いや、でもコイツ使えねぇなってなったら他部署に移りませんかね?アッでも前「柔道も経験ほとんどないんですよね〜はは〜」って言ったら「僕が鍛えてやる」って言ってたからお説教どころかもっといや予感しかしない。寝たフリしよう。


「なんで????」


 ばちくそ緊張して身を固めてたらすっと入ってきたのは真っ黒い格好のFBIのとこの捜査官さん。相変わらず目の下に隈を携えてる。赤井さんの方が見てもらった方がいいんじゃないだろうか。


「大丈夫か、太郎。何か食べれるか?」


 眉を下げて俺のほっぺたを触ってくるのがもうこれがモテる秘訣か!って感じだけどまじでなんでいるの?混乱すると人って声出ないんだなって思った


「もうすぐ点滴も終わるそうだ。帰ろう」


「ちょっと待ってどこに?」


あ、出たわ声。


 そのあと色々問い詰めるて要約するとあけおめメールを送っても既読にはなれど返事はないし、家にも帰ってないし電話も出ないしでGPSやらいろんな力を駆使して病院にいるってわかったので飛んできたそうだ。「いや、住所知らないですよね?」って言葉はスルーされたけど。GPSの件も解決してないよ赤井さん


「ご心配をおかけしました?」


「ああ」

 心配をかけたつもりはないけど飛んできてくれたらしいしとどうもどうもしてるけど突っ込みどころが多すぎる。あと怖い。プライバシーとは。引越しを考えるべきかその前に携帯の解約が先か?うんうん唸っていると「太郎!?」って飛び込んでくる金髪が見えたのでなお胃が痛い。胃潰瘍になりそう。「なんでいるんだ」「それは僕が連れてきたからに決まってるじゃないか」お願い、病院だからファイティングポーズやめて下さい。俺チキンハートだから看護師とか他の患者にうわーって見られるのとかストレス死んでしまいます。お願い風見にいちゃん迎えに来て。助けて


「少年って誰だ」


「エッ」


 二人でごちゃごちゃ言ってるから点滴のポタポタを見ながらにいちゃんに念を送ってたら不意に降谷さんが振り返っていうもんだからめっちゃ体ビクッてしたよね。顔怖い。寝不足です、みたいなギラギラも目と普通に綺麗な顔が起こってるの怖い。あと思い当たりがない。少年って誰


「結婚してくれって言ってただろう。誰なんだ。もしかしてコナンくんか?僕より彼を選ぶのか太郎」


「本当か、太郎」


 ノンブレス怖い。ちなみに天地がひっくり返っても降谷さんは選びません。だってつまり『僕と一緒に日本の平和に身を捧げろ』ってことでしょ...?俺別にそこまで正義感ないしなんだったら自分が可愛い。赤井さんそんな悲しそうな顔しないで。クリミナルマインドにハマって見れたんだけどあんなサイコな事件が続くアメリカとか無理。精神衛生上よろしくない。あ、でも赤井さんがFBIってかいてあるパーカー着てるは見てみたい


 やいやい言い合ってるうちに点滴が終わってナースコールを押す。テキパキと動く看護師さんに部屋から追い出される。インフルは陰性だったらしいよ、やったね。ちなみに笑顔の素敵な彼女は同棲してる彼氏がいるらしい。ちくしょう。その会話を聞いてた二人がまた何かを言ってたけど今お正月だよね?なんでこんな目にあってんの?俺のお正月散々すぎる。実家帰りたいってこんなに強く思ったのは初めてかもしれない。


 病人だからって両脇を上司に囲まれてるお正月嫌だなぁ


「明けましておめでとうございました」


 そういえば挨拶してなかったなって思い出して口に出すといい笑顔で「明けましておめでとう」と返してくれる二人。悪い人じゃないんだけどなぁ。でもずっと一緒にいるのは正直キツい。結構仕事とプライベートを分けたい派なのにこうやって正月まで気を使うのがキツい。早く職場に戻って欲しい。


「ってことがあって、お正月くらいゆっくり炬燵で過ごしたいしその後ちょっと微熱続いてしんどかったしでそろそろ本気で転職を考えてる」


 暑いコーヒーをゆっくりすする。


「なんでおにさんは僕に言うの?」


「高木さんとは仲良さそうに話してたくせに」


 少年がコーヒー派って知ってる仲じゃないか。それくらいの情報しか知らないけど


「くせにって」


「小学生の呆れ顔つらい。ねぇ少年、将来探偵事務所開いてバンバン依頼受ける、とか警視総監になるとかして養って」


「もれなくついてきそうな人いるけどね」


「...アメリカじゃない海外の就労ビザってどうやってとるんだろ」


可哀想にっていう視線がつらい。


 黒澤さん、あ、銀色の髪が長いステーキ奢ってくれるお兄さんにも正月の出来事をかいつまんでメールすると「やめてしまえ」ってきてた。わかる。でも事業を出そうもんならそれこそ降谷さんに埋められそうでできない。社畜魂が植え付けられつつある現実が辛いよう。

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