レオナ成り代り


ウケる。


 いや、正直にはウケない。目が覚めたらやたら暑い国だった。手足は小さいしなんなら俺を世話してくれてる人はみんな耳と尻尾が生えている。どういうことなんだ。まさか、と思って自分の頭と尻を触る。うわ、ある。


 ついさっきまで普通に働いてたはずなんだ。激務を終えて電車に揺られやっとこさ寝たと思ったらこれ。夢にしてはリアルだな。夢って気づくタイプの夢は久しぶりかもしれない。


そのままアウアウ言ってたら数年がすぎた。夢の中の時間軸わけわからん。ちなみに俺は第二王子らしい。よくわからないが、そんなことを周りの耳はえた大人が言ってた。


「様は活発でらっしゃるのに、レオナ様は大人しいというか、気味が悪いほど落ち着いてらっしゃる」


「それにあのユニーク魔法。何もかもを砂にしてしまうだなんて恐ろしい」


 めちゃくちゃ嫌われてる。嫌われているというか遠ざけされてる。王位継承者第一位である兄は全然気にせず遊んでくれるし俺もいい大人なので全然気にしてはないんだけどユニーク魔法?あれにはめちゃくちゃびっくりした。急に発動してしまって制限はできないし魔法って何それって感じなのに触ったものが砂になるもんだから周りもパニック。パニックになる俺と暴走する魔法を押さえ込もうとする大人の強硬手段によってちょっと目蓋を切った。目蓋って結構出血すんだよ。ボクサーとか切るとなかなか血が止まんないでしょ?それでまたパニック。なんとか治ったけど人を殺さなくてほんとよかった。そういうのが存在するなら最初から教えて欲しかった。王子教育どうなってんの?あと教育不足で暴走した俺を君が悪いとか言ってる大人本当はたき倒すぞって感じなんだけど


 第二王子ってことでまぁ、王には成れないから国の補佐ができるように外交とかやって行こうねって教育方針には異論はないのでフーンって感じで受けてるけど結構面倒くさいのでちょくちょく抜け出しては木の上でサボってる。いや、必要だってのはわかるんだけど激務終わった後の夢でも勉強しなきゃいけないってのが辛い。もっと自由にやらせて欲しい。サボり癖がついちゃったから余計周りの大人に文句言われるんだけどね。


 15になるちょっと前、なんか鏡がキューンて光ってそのまま変な部屋にワープした。もうなんでもありっすわ。んでなんか黒い人がいる中で「あなたは選ばれました」的なこと言われてテンション高えなーって話聞いてたらいつの間にかまた自分の部屋に戻ってた。怖い。魔法の世界の仕組みが分からなくて怖い。


 その後とんとん拍子で魔法学校?に入学することになっててハリポタかな?って思ってたらなんか違う。リスペクトしてるというかモチーフになってる人たちがまず人間っていうかこれ某巨大アニメ制作会社のキャラクターじゃない?って思ってたらその通りだった。耳生えてるしどうせライオンの寮だろって思ってたらそのままですよ。ひねりがねぇな。というか俺も第二王子だしすごい見覚えのあるライオンの像だしもしかしてこれは期待されてるんじゃないか。やってみるか?国家転覆。いや、やらないけど。政治とか本当に興味ない。大変そうでしかない。生かすも殺すも政権次第。怖すぎ。

 
 自分の国に帰りたくなさすぎてサボり癖をマックスにしてたらめちゃくちゃ留年した。帰っても勉強せねばならん。政治の勉強はしたくない。なんなら俺をあんまよく思ってない世代が辞めるくらいまで帰りたくないって思ってたらいつの間にか20になってた。ヒョエ。つかまじで夢から醒めないんだけど。俺死んでたりするんだろうか。夜、時々怖くなって学園内をうろうろする。悩んだところでどうにもならんのんだけど世界に1人ぼっち感とこの気持ちを共有できないのが怖い。だってさ、俺が俺のままこの世界にきたら「お前誰だ?!」ってことで事情を説明して理解を得られるまではいかなくても孤独を理解してもらえるわけで。でもほら俺の場合俺の意思を持ったままオギャアと生まれてしまったわけで最初から存在するわけだから今更「夢から醒めないんだよ、これなんの夢?」なんて言ってみ?頭おかしいと思われて終わりでしょうが。早く夢覚めてくれ


「おい、ラギー。髪」


 今日も今日とて夢から醒めず寝不足な目を擦って起きると部屋の脱ぎ散らかした服を集めているハイエナが目に入る。正確にはハイエナの獣人?正確に俺らのような種族が何って呼ばれてるかも知らないんだけどこんなんが第二王子で大丈夫か俺に国。


「あ、起きたッスか?もー、レオナさん服脱ぐなら一箇所で脱いで欲しいッス」


「あー」


 返事の代わりに欠伸をしてボリボリと頭を掻く。耳と尻尾がある獣混じりのせいかは分からんが寝る時まで服着てたら窮屈なんだよね。


「うわ、全然聞いてない」


 文句を言いながらも服を洗濯用の袋に集めているのはここでの俺の後輩で名前がラギー・ブッチくん。スラム生まれだと言っていたので王族に恨みの一つや二つでもあるんかなと思ったら別にって感じらしい。でも家族の経済状況はよくないらしくてこのお手伝いも全部賃金が発生している。まぁ王子なので金はあるから全然いいんだけど。


「そういえば昨日の式典での騒ぎはどうなったんだ」


 寝起きの頭をスッキリさせてからこの優秀な後輩に髪をとかしてもらおうとパンツも脱ぎ捨ててシャワーに向かう途中で思い出したけど結構な騒ぎだったよね?新一年生に予期しない人物がいて、ついでに使い魔?獣?も暴れたらしくて大変そうだった。俺は遠目で見てただけだけど。なんか理事長が騒いでんなって思ったくらいしか覚えてない


「あー、なんか異世界?の人間だったらしくて帰る方法が見つかるまでこの学園に通うらしいっすよ。ってレオナさんパンツくらい持っていって!」


 通うってところらへんでシャワーをひねったのでその後ラギーがなんか言ってたのは聞こえなかった。俺も図書館で夢から覚める方法とか探そうかな。授業はめんどいけど自分の興味あることはしっかりやるタイプだから。ちょっとその異世界から来た人間に話が聞きたんだよなぁ。だって俺のいた普通の世界の住人だったら本格的に夢ではない?俺自身も異世界にきているということになるのだろか。ほとんどの獣人が寒さに弱いため暑く保たれているサバナクロー寮のため冷えた水を頭から被りながら悶々と考える。己の脳味噌の中ではどう頑張っても答えはでないとわかっているのについつい考えてしまうのは人間の性なんだろうか。冷えた水のおかげで脳みそも冷えてきたのか「まぁどんなに考えても分からないことがある」とこの世界で醒めてから幾度のなく言い聞かせてきた答えで自分を納得させる。とりあえずは理事長であるクロウリーや食堂のシャンデリアで騒動を起こしたというハーツラビュル寮の一年生、べったりくっついている喋るネコが居ない時間を狙うしかない。尚且つ寮長という俺の立場を踏まえて「やあこんにちは!話があるんだ!」と簡単に話しかけるわけにもいけない。誰もいないタイミングで抜け出すしかない。面倒くさいな


 重く溜息を吐いて蛇口を捻る。きゅっと音を立てて水を止めると長い髪を後ろにかきあげる。ボタボタ垂れる水をそのままにシャワールームから出る。


「がああ、いつも拭いて出てきてくれって言ってるじゃないッスかァ」


「そのうちな」


 水たまりを作りながら歩き回る。ソファまで歩いて一応引っ掛けてきたタオルで体を拭いてからパンツを履く。尾が出るように設計されているから窮屈さを感じないパンツに慣れるのにも時間がかかったというのに


 この十数年行方不明なやる気を出す時がようやく来たようだ。


「面倒くせえな」


「何がッスか」


 何もかもだよ。とは言わず背伸びをする。インナーとワイシャツを着てボトムスを履く。基本的に制服は改造も自由なので靴下を履かずにサンダルを履く。学園内全部をフローリングに変えてくれれば素足で歩くんだけどなぁ。


「お、今日は授業でるんスか?」


「気が向いたらな」


 例の人間の子供は知らない世界で勝手がわからないから昼間は授業に出るんだろうし、夜はあの古くなって今は使われていない寮をあてがわれたらしいしまぁ同じ学園にいるんだそのうち会えるだろ。俺も四六時中こいつらと一緒にいるわけでもないし。あー、新学期が始まったってことはそのうちマジフトも始まるわけでしょ?去年マレウスにボコボコにやられたから一応マジフト強豪寮、ゴリゴリの体育会系が多いうちの寮としては負けられない戦いが始まるわけで。ほら、俺一応寮長だから寮生の将来がかかるマジフトを手抜きするわけにもいかないのよ。いや、でも本当にマレウス強すぎる。魔力の差しか感じない。うーん、全部砂にする能力を俺自身は割りかし気に入ってはいるんだけどもっとこう凡庸性がある魔法でもよかったなって思う。あのハーツラビュルのチャラそうな子の増えるやつとか。あれで俺の分身作って授業でて欲しい。あ、でも全部の単位取れちゃうと卒業して実家手伝えって言われると思うとやっぱ出て欲しくない。向こうの同期が実家の農業手伝いたくなくてサラリーマンやってたこと思い出した。第二王子ストレス抱えすぎじゃない?大丈夫?闇落ちもまったなしじゃない?や、まぁストレス溜めまくるとどうなるかサラリーマンやってて精神科のお世話になったこともあるから知ってるんだけどな


 
 


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