マジカメの達人


 なんだいなんだい。監督生って呼ばれてる人間の子供人気すぎない?四六時中ハーツラビュル量の子と一緒にいない?俺は王子だけどこんなんだし入学したての頃は割とやる気に満ちてたので授業も真面目に受けてたのと血筋パワーで結構魔力もあるので喧嘩ふっかけられようが襲われようが大抵は返り討ちだから1人でフラフラしてても平気だからあちこちでサボってるけど、あの子まじで真面目かな?積極的に探してないっていうのもあるけど本当に1人でいるところ見かけないんだけど


 夜にオンボロ寮の近くまで行ったんだけどその時にはもう部屋の電気消えてた。いや、まぁ最初から電気通ってない説もあるけど。


 朝、いつもどおりラギーが起こしに来て髪やってもらって着替えて一応同じ時間くらいには出てきたけど何回も受けてる授業に出る気起きなくて植物園に直行である。室温が暖かめに設定してあるし、人も来ないし、植物って結構癒し効果あるからよく眠れてしまう。適当な芝生の上でゴロンと寝転がると自然にあくびが出て来た。ゴロ寝すると制服が汚れるからまたラギーに怒られるんだけどね。というかそろそろ一回くらい授業出とかないとトレイン先生飛んできそう。飛行術の奴はザ・脳筋って感じで扱いやすいんだけどトレインはまじでお小言始まったら3時間は固い。んで向こうは良くも悪くも俺のことを一生徒としか思ってないからガチ目の説教。クルーウェルとどっちがマシかっていうと課題と試験やってればなんとかしてくれるこっちの方が幾分かマシなのである。


 明日から頑張る。明日から。


 気づけばうつらうつらしていてこの夢に入ってから眠っているような起きているような感覚のせいでしっかり寝たっていう感覚がないんだよね。夢の中でもなんか夢を見てる感覚がある。全然内容わかんないけどイメージだけが脳みそにこびりついてて取れない。目を瞑ってもう一回眠れば思い出せないかなぁ


「いってぇ!!」


ビリリと骨まで来る痛みで飛び起きる。尻尾!俺のキュートな尻尾が踏まれた。尻尾も骨までしっかりあるんだよ。感覚でいうと足の先を思いっきり踏まれた感じ。つまりめちゃめちゃ痛い


「おい、人の尻尾踏んでおいて素通りとはいい度胸だな」


 踏んだことがわからなかったのか普通に通り過ぎようとする人影をとめる。夢見は悪いわ、尻尾はふまれるわで思いの外低い声が出る。


「あんたここの管理人さん?」


「は?人が昼寝してるとこに邪魔しやがって」


 そんなん俺も見たことねぇわ。つか一応サバナクロー寮長である俺の顔をしらねぇ奴とかこの学園に存在すんのか。何トンチンカンなこと言ってんの。温厚な俺も体踏まれた上に謝ることもされないと怒るからね。つかなんで2人分の声すんの?髪をガシガシ掻きながらようやく俺の大事なしっぽを踏んだやつの顔をみる。。宙に浮いた猫と気の弱そうな人間。あ、噂の


「お前、入学式で鏡に魔法が使えねぇって言われてた」


「すみません」


 萎縮してるのと、俺の顔を知らないってことで多分間違いはないと思うが。鼻を寄せて匂いを嗅ぎ取る。耳と尻尾でお分かりの通り獣の特性を引き継いでるので匂いも敏感なのである。だから錬金術の授業きついんだよ、薬品が鼻をやりにきてる。


「なるほど、確かに魔力の匂いはしねぇな。なぁ、お前。聞きたいことがあるんだが」


「うおおお、なんかこええんだゾこいつ!監督生!早く行くんだゾ」


「おい、待てよ」


「レオナさーん!」


「…あ?」

「もー!やっぱりココにいた。レオナさん今日は補習の日ッスよ」


「あー…うるせえのが来た。ラギーお前タイミングが悪いんだよ」


「いやいや、ただでさえダブってんですから!このままだと来年には俺と同級生ッスよ。もー、やればできるのになんでやんないスかぁ。ほら!行くっスよ」


 引きずるように手を引かれる。というかほぼ引きずられてる。あーあーあー、クソ。俺は監督生に聞きたいことがあったのに。補習よかよっぽど大事な用事なんだけど。俺のメンタル的には。ずりずり引きずられて植物園を出たからもう今日は諦めたけど


「誰が担当だ、補習」


「今日は確かクルーウェル先生ッスね」


「あー」


 引きずられながら学園内を歩く俺はさながらおやつを強請って買ってもらえずスーパーを引きずられる子供のようである。学内の生徒は見慣れてるからか誰も反応しない。実家に帰ってもこんな感じなので俺も慣れてる。いや、慣れるなって話なんだろうけど。でもしょうがないじゃん。やる気が伴わないんだから。


「夜食は汁物にしろ」


「はいはい、冷たいのっすね」


「あら、あんたたちどこ行くの?もう授業は終わったわよ」


「ゲ」


「シェーハント、テメェには関係ないだろ」


「レオナさんの補習ッス」


「ラギー、テメェ」


 自分の後輩によるまさかの裏切りによりポムフィオーレ寮の寮長であるヴィル・シェーハントに鼻で笑われた。寮長会議とかで顔を合わせることも多いけど、ほら、モデルをやってるから彼って美意識が高いから事あるごとに怒られるんだよね。猫背だ、とか制服がヨレてる、だとか。


「ほら、あなた髪も乱れてるわよ。また地べたで寝てたのね」


 パパッと髪をはらわれると緑の葉っぱであろうものが宙をまう。違うんだよ、これは葉っぱたちが俺について来たかったんだよ。サイドに編んでもらった髪を解いて髪をガシガシとく。


「ああ!もう貸しなさい!」


「シェーハント先輩、レオナさんお願いっす!」


「おい」


「仕方ないわね」


「おい」


 ほら、早く貸しなさいと言われたので髪留めを渡す。適当な椅子にどかっと腰かけると後ろに回ったシェーハントが丁寧に髪をかき分けて手早く三つ編みを作っていく。ん?三つ編みじゃないな、なんか4本持ってる。4つ編み?いや、わからん。自分で結んでいたらごちゃごちゃに絡まってもう諦めた。実家では大人しく従者にやってもらうしここでは優秀なラギーくんにやってもらっていますので。つか髪触られてると眠くなってくるのはなんでだろうな。あったけーわー、補習怠いわーって思いながら目閉じてたらまたうつらうつらして来た。いった!


「引っ張るな」


「やってあげたんだから文句ないでしょ。さ、あんた補習なんだから早く行きなさい。クルーウェル先生に叱られても知らないわよ」


「へーへー」


 ったく黙ってたら綺麗な顔してるのに、とかぼやきが聞こえる。そうだろう、こんな顔のいい雄はなかなかいないぞとは声に出さずふんと鼻を鳴らす。そしたら尻を叩かれるようにベンチから追い出された。


 ちなみに補習は遅刻した。クルーウェルには躾のなってない仔犬ってよく言われるけどどちらかというと仔猫だから。飼い猫扱いははやっぱり仮の世界とはいえ百獣の王なのでちょっと癪。かと言って犬ですらないだけどとか思うけど一回も言い返したことはない。わざわざ訂正するほどのことでもないし


 欠伸を噛み殺しつつ簡単な講義聞いて小テストを受ける。安定の点数なのですぐに解放されたが久しぶりに頭使ったし、尻尾も踏まれてテンションだだ下がりなので肉が食べたい。ステーキ。腹減った。尻ポケットに入れてたスマホを取り出してラギーにメッセージを送る。なんか前のメッセも返してないっぽいけど知らん。「肉」だけ送ってスマホを閉じる。時間的にもうすぐ部活も終わってその足で食堂だろう。ブラブラ歩きながら食堂に行ってたらいい時間になりそう。つか飛行術の授業はあるのに学園内の移動が箒ダメっておかしくない?魔法の世界ってこう、箒乗ってビュンビュンしてんじゃないの?って思ってたけどこの世界は割と鏡で移動する。鏡と鏡で空間を縮めてるから各寮があんな城みたいな建築物が建てられるので残念ながら動く階段はないです。あと鏡と鏡を繋げる技術は結構複雑で腕のいい魔術師じゃないとできない。俺は手鏡と自室つなげてるからすぐ帰れるけど。ちなみに実家と直には繋げてない。お察しである。スカラビアんとこの寮長が持ってる絨毯はちょっと欲しい。うちの国にも輸入したい。ガチな移動は走った方が多分速いので政治的な移動手段には使われないと思うけどあれで寝たまま運ばれたい


 あー、ダリーって感じで歩いて移動してるとすれ違う寮生たちが挨拶してくるのを手をあげて返したりたまぁに反応してやらないこともあるけど基本的に縦社会なというか体育会系のうちの寮の子らはちゃんと挨拶してくるからこそこそ隠れる実家の使用人たちには見習って欲しい。


 あ。実家から手紙来てたわ。しかも兄嫁から。いかがお過ごしですか的な。式典服を着ている貴方を見てみたい、的な。あああああ。うちの国では女性が強い。圧倒的な意志の強さに加えて集団行動のうまさと来たら敵わない。考え方も大人びているというか全体を見通す力も強いので政治にも兵力にもふんだんに女性の力が発揮されているのだが家族の問題となれば最高に面倒臭い。いや、無茶苦茶いい人なんだよ。よく言えば大らか。悪く言えば楽観的な兄貴を支えてるのもしっかりした兄嫁の力である。この手紙も多分兄貴が渋って渋って渋るからこっちに来たんだろうし、一応皇后さまからのお手紙を無視するわけには行かないのである


「あ゛ー」


 食堂に入る手前くらいでめちゃくちゃでかい溜息が出る。多分式典服はクリーニングから返ってきてるとは思うけどどうせならこの前来たときに撮ってしまえばよかった。


「おや、どうしたんだい。麗しい顔に溜息は似合わないよ、獅子の君」


「テメェのせいだよ、ルーク」


 めちゃくちゃ芝居がかった声に悩みの種が追加される。同じ学年、同じクラスのこいつはことあるごとに絡んできてあわよくば俺を狩ってやろうと思ってる狂人である。何がどうツボにハマったのか知らないが四六時中にこやかに殺意のこもった視線をもらってみろ、無茶苦茶気が滅入るぞ。どこまで本気かわからないが本気で罠に仕掛けてこようもんなら遠慮なく砂にして差し上げるのでそこのとこはよろしく。何かと突き回しているらしいラギーを土産においていってやるわ。まだなんか言ってるけど押しのけて食堂に入る。ポムフィオーレの連中はこんな狂人が副寮長で大丈夫なのか。自称狩人なので参謀としては確かにいいのかもしれないが嬉々として戦闘に混じって血に濡れて返ってくる対応だろ、あれは。ってとこまで考えて白雪姫の、姫を殺してくるように言われた狩人もおかっぱだったなって納得いった。あーって感じ。一応3年同じ学年だったのに今気づいた。どれだけ他人に興味なかったのかがわかる。でも、余計夢、というか異世界なのかは知らないが自分の知っている世界と離れていく。


 監督生とも喋れず仕舞いで急に苛々してきた。人混みを押しのけて食堂をズンズン進む。なんとなく寮ごとで生徒が固まるから耳の生えてる奴らを目掛けて進むとラギーが「レオナさーん、こっちッスー」と手をあげるのでラギーの向かいにどかっと座る。頼んでた肉はまだ来てないがそのうち誰か運んでくんだろ。


「随分綺麗に結ってもらいましたね」


「美意識の塊みたいな人間だからな。テメェももっと丁寧に結べ」


「ひでえ。自分で結んだ方がめもあてられない癖に」


「毛並みさえ整ってりゃあいんだよ」


「大事にしてんのかしてねぇのかわかんないッスね」


 馬鹿野郎、ライオンの立髪的存在だぞ?髪の毛無茶苦茶大事にしてるわ!って思ったけどこいつが俺に付くようになってからトリートメントとかオイルとかは俺よりこいつの方が気を使ってるなって思って黙る。自分の毛並みは結構疎かにしてるっぽいのでたまに気が向けばわしわしとオイルを塗ってやることもあるけどこの1、2年で一回あったかなかったかなのでたまにって言っていいんだろうか。


 運ばれてきた熱々ステーキを食べながら「帰ったら式典服出しとけ」っていうとまたブーイングを食らったよ。まぁ正直ごめんって思ってる。ちょっとだけ。


 鏡で帰るから自室に帰るのは俺の方が早いんだけどねって体力が消化に回って眠気を訴えてくる脳味噌をなんとか覚醒させたままソファにゴロリと横になる。はよ。ラギー・ブッチ、はよ。


「クリーニング戻ってましたよ」ってラギーが部屋に入ってくる頃には8割寝てた。「そんなところで横んなんないでください。もーまた制服シワになるじゃないっスか」ってぷんすこしてるラギーの方がよっぽどしっかりしてるよね。


 8割ほど脳味噌が機能してなかったせいで口を開くのも億劫な俺は「ほら、写真撮るんでしょ」と言われるがままに式典服に着替える。ぱっと見はゴシックっぽくてかっこいい式典服は寝る前はスーツばっか着てて夢んなかではゆるーい服ばっか着てた俺にはややこしくて5年来てるはずなのにバシッときれない。ほぼ着せられながら着替えて、まだ水浴びしてないからって式典用のメイクまでされる。正直家族に送るだけだからそんな気合い入れなくてもいんじゃね?って思ったけど声帯が仕事しない。


「はい、オッケーッス!じゃあ写真撮るんで適当に座ってください」


 ソファに投げてたスマホを投げ渡して部屋にあった椅子に適当に座る。フードもかぶれと言われたので大人しくフードをかぶるが耳が、スースーする。俺ら獣人の式典服は耳を考慮してないのでいつもフードをかぶる時は窮屈でしかないのにこの解放感はどういうことだ。


「どうなってやがる」


フードの上から耳を触ると触り心地の良い毛並みに触れる。フードに穴が空いてるってことはまさか、あの角野郎の式典服じゃなかろうか


「ふっ、ひひひ、はは!そうやって耳だけ出てると可愛いッスね!ひひっ」


「ラギーテメェがクリーニングに出したんだろうが。どうなやってやがる」


「ええっ、俺のせいじゃないッスよ!ちゃんとレオナさんの名前で出したしミスったのはクリーニング屋さんじゃないッスか!」


「いいから写真撮ったらさっさとコイツを取り替えてこい!」


「えー、俺が行くんすか?無理っすよ!レオナさんは寮長同士で顔を合わせることもあるから平気かもしれないっすけどディアソムニアの寮長ッスよ」


「知るかよ」


一応写真は撮ったようなので全部脱いでパンイチになるとレオナさんも一緒に行ってくださいよーって泣き言が聞こえる。この俺にもう一回制服を着ろと?って意味で睨みつけても早く着替えてくださいッスって式典服拾ってるラギーはいい度胸してる。


 めちゃくちゃ嫌々行ったディアソムニア領では2年のなんか銀髪の子に捕まったんだけどすごい言ってることが噛み合わなくてもどかしいというか通り越して話すこと諦めようと思ったのは初めてかもしれない。わざとやってんの?ってラギーに聞いたら通常運転らしくてマレウスはよく耐えれるな?って思ったけどあいつのフェアリー具合は脳味噌にも到達しているので会話くらいなら成り立つんだろう。リリアがくっそ笑いながら式典服を変えてくれたのでやっとこさ寮に帰れるんだけどあのジジイ話の内容を遠目で聞いてわかってんのに俺が苛々してきてんの笑って楽しんでやがった。だから来たくなかったんだって


「疲れた」


「レオナさん制服!」


 ベッドに伏せて疲れすぎて動けないので返事もせずに脱がせてって感じで腕を上げる。「あー、もう」って言いながら脱がしてくれるラギーは俺に慣れすぎだと思うよ。ありがとう。ズボンも頼むわ。足をちょっと上げるとズリズリスボンが下げられる。開放感とラギーへの労いで尻尾をふる。


「あ!」


「うるせえな」


「さっき撮った式典服、マジカメにあげてもいいッスか?フード被ってないやつにしとくんで」


「…好きにしろ」


「うーす。じゃあ今の死んでるレオナさんもついでにとっとこー」


 こちらとらパンイチなんだが?って思ったけどもう口を動かすのも面倒くさい。ベッドの上でうつ伏せで大の字の半裸の男拡散すんのやめて。俺はマジカメをやってないのでラギーのアカウントに出てくる俺くらいというかレオナ様お世話アカウントになってるらしい。#脱ぎ散らかさないで欲しいッスっていう投稿はよく見かけるよってハーツラビュルの3年が言ってた。結構人気なんだよって言ってたけど俺の美貌を持ってすれば当たり前よ。


 眠気に負けて思考がとっ散らかってきた。そのうち監督生とちゃんと話をしよう。俺のストレスが爆発する前に。



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