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太郎はきょとりとした後ドフラミンゴの緊張と裏腹に「いいえ」と微笑んだ。



「それに、拾ったとも思ってなかったと思いますよ」


ティーカップをゆっくりとテーブルに戻してお茶請けに出されたクッキーを手に取ると話すかどうか迷っている様子だった。



「何故そう思う」



太郎はもう一度ゆっくりお茶を飲むとポツリポツリと語り始めた。



「俺を拾ってくれたドフラミンゴと言う人は、珍しいものを見つけたから見てただけ。拾ったならきっと役割を与えるでしょう?愛玩にしても、それなりに。」



「彼は人の中心に居ました。国王だったし、ファミリーという組織のリーダーだった。でも、俺は彼の国に使えることもなく、ファミリーの人達にもほとんど顔を合わせたこともない。ファミリーにもペットにも働くコマにすらなれなかった。」


太郎は大きく息を吸ってゆっくり吐き出した。ティーカップに注いだお茶が波をたてる。



「俺にとって彼は初めて暗闇から出して”好きにしていい“と言ってくれた唯一の人だった。だから、連れ出してくれて感じた喜びを全部彼に伝えたくて頑張ったけど、彼は、ドフィは俺に興味がなかった。色んな人のところに居たんだ、俺だってバカじゃない。彼が俺を連れ出したのも気まぐれで、何も求めていないことはわかってた。いや、むしろ鬱陶しかったのかな」



「ずっと話かけてたのは迷惑だったのかも。なんの役にも立たず居るだけだったし、俺の存在すら忘れてるかもしれない」



「でも、いつもなら自分がどう失敗したか分かるんです。暗い部屋に連れて行かれて殴られて怒鳴られるし、失敗したことを覚えてれば次はヘマをしないでしょう?」



ねぇ、どこで失敗したんだと思いますか。もう捨てられちゃったけど、彼は俺を覚えてないかもしれないけど、俺は本当はまだ彼のそばに居たかった。



穏やかな声のはずなのに悲鳴のように聞こえる



泣いてるようなクシャクシャの笑みを浮かべる太郎を見るのが辛かった。いっそ泣けばいいと思うのに、“ドフィ”が居なくなってから泣かなくなった



「そうか。酷いやつだな、そいつは」




ぐしゃぐしゃと頭を撫でる手は震えてないだろうか。ドンキホーテ・ドフラミンゴはこの時、国王でも海賊でもなくただの男だった。どうしようも無く太郎を抱きしめて「俺がドフラミンゴだ」と言いたかった。何度言っても顔を触らせて抱きしめてダメだったけれど、「ここにいる。捨てちゃいない」と叫びたかった



ただの気まぐれで連れてきたことを太郎が分かっていたなんて気づきもしなかった。でも興味がなくなっただなんて言わせたくなかった。俺はお前の目に俺だけを写してほしかった。きっと本当に捨てられたのはドフラミンゴの方だ



縋って泣いて欲しかった。いや、違う。幸せそうに笑って優しい声音で「ドフィ」と呼んでほしかった。拙い言葉で、日々あったことを話してくるお前をずっとそばに置いておけばよかった。嫌がっていると知って太郎を暗い部屋に閉じ込めた



急に動かなくなった俺を今度は太郎が優しく撫でる。「大丈夫?どうしたの」幼子にする様にゆっくりと慈しみのこもった声が染みるように耳に入る



太郎がまだ俺を俺と認識していた時、横で寝るのだとベッドに寝転がって同じように頭を撫でた。どうしようもない思い出だけが嫌がらせのように蘇る



「泣かないで、ドフラミンゴさん」



ああ、彼の中に俺はいない



ボロボロと涙をこぼしているのドンキホーテ・ドフラミンゴただの男だった。しかしドフラミンゴとして太郎と笑いあう日はきっとこない。



失敗したのは彼の方だった。


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