Half-Blood Prince-8
「ホグワーツ在学中に、トムはある教授と親しくなった。その教授は誰だと?」
「…だからスラグホーン先生を呼び戻した……」
「いかにも。…彼はわしが求める物を持っておるが、容易には渡してくれん」
「先生は僕を気に入るって…―」
「気に入るからってわざわざ連れてって紹介だけ?…」
「そのとおり」
「取り入れと?」
利用されてしまったような心地のままダンブルドアのほうをどうも見れず、ハリーは呆然と空を見つめながら、駅での名前の表情を思い返した。
…――
貝の家の空気は、先日とはまた違った重さが漂っていた。大人しく席についている名前、駆けつけて名前を目に入れたムーディと、少し先の窓辺から構えて見守るビル達。
「どういうつもりか答えろ」
「… ごめんなさい」
「謝れと言っていない、どういうつもりか答えろ」
「…マッドアイ、―」
「口出しするなビル。名前に聞いておるんだ」
キッと向けられたビルへの視線は鋭く、声は穏やかでない感情を含んで低い。隣のフラーも、駆けつけたそうにその場で手を右往左往させながら、まるで小さくなったような名前を案じる。
口論に発展するまでフレッド達に止められたあのときと、今の圧はまるで違う。
立ったままじっと見つめるムーディと、そちらを向けずテーブルを見つめ、沈黙が大きく耳に届く心地の名前。
枯れそうな喉で、小さく声を振り絞る。
「…答えを知らなくちゃと」
「その身を危険に晒してでもか?方法を誤るな、あの部屋で、本部で、お前を守るために使った時間がすべて水の泡だ。学ばせたこともすべて」
「大人しく悲しんでいろなんて習ってないもの」
名前の声にも思わず力がこもる。
「その好奇心を捨て置け、名前。がっかりした。…アルバスの忠告の意味ももっと理解しろ」
「っ…好奇心? …理解ならしてます、」
「していない。その魔法が何だか分からない以上…―」
「っっ 私の魔法よ!」
「お前や味方ならまだいいだろう!では敵ならどうする!!考えなかったわけじゃあるまい!!」
感情のまま、椅子を倒して立ち上がった名前に、さらにムーディの大声が浴びせられる。名前の押し込めてた不安が決壊したように、何歩も迫った目の前のムーディをうつす、両目からぼろぼろと涙が落ちる。
ムーディは目を逸らさず、動揺のひとつも見せずに続ける。
「屋敷しもべの魔法と偽ってお前を陥れる罠だったら?ハリーを騙し何人も魔法省へおびき寄せたのは誰だ?何年もわしの仲間を酷い目に遭わせ、殺したのは!」
「……っ、…っ、」
「お前も見たように呪文ひとつでシリウスは死んだぞ」
名前の頬を伝う涙は、とめどない。
現実を突きつけ、子を叱る親のようなムーディは、理不尽なわけではなく、名前の命を守り抜く意思だけが感じられる。そのためビルもフラーも止めに止められず、ただ駆け寄りたいのを堪えて見つめている。
名前にだってその意思も、彼にそう言われても仕方のないことも、分かっている。
「……じゃぁ 私はどうすれば…」
「……」
「敵の思惑かもしれないのに、黙って待つしかないの…?」
「…アルバスはわしらに伝えた以上に、多くをもう知っている筈だ」
名前の胸に、考えないようにしていた不安と、アパルトマンでの孤独が蘇る。ムーディは、表情は一向に穏やかでないながらも、もう声は荒げていない。
「その彼が動くなと、念押しまでしたのだ。それに沿う以外のことをするな」
「……」
受け入れ難いものを受け入れるように、目を堅く閉じる名前をしばらく見届け、ムーディは貝の家を去る。
俯いてしまった名前を、歩み寄ったフラーが抱きしめ、不安を拭おうと努めた。