Half-Blood Prince-10



名前は静かな静かな旧本部を訪れていた。以前皆で夕食に集まった部屋の隅、積まれた新聞や、無造作に置かれた本を手に取りながら静かに過ごした。本当はクリーチャーに会いたかったが、此処には薄っすら日が差し込むだけで誰も居なかった。
ふと入り口から届いた物音に期待と、警戒を同時に過らせたが、気さくな表情のルーピンが片手を上げただけだったので、名前は緊張を解いた。大きなトランクを隅に置き、ルーピンも広間へやって来た。

「ここならお咎めはないだろうね。自分の魔法で?」
「……本で」
「ほう、偉いじゃないか」

心底意外そうに見せるわざとらしい表情に、名前は思わず少し吹き出すと、ルーピンも笑う。トランクを見るに長くあける、なにか重大な役目を果たしに行くようだったが、聞いてもルーピンは少しの新生活だと濁した。強張った名前とは違い、ルーピンはリラックスしているようにも、むしろ名前の気をほぐそうとしてくれているようにも、そしてそれが空元気にも見えた。

「…先生も私が叱られたの、ご存知なんですね」
「皆知ってるよ」
「……」
「… その後彼がひどく後悔して項垂れていたのもね」
「… ?」

名前はみっともないやら恥ずかしい心地から、しかめてルーピンの言葉の理解に努めた。貝殻の家以降数人は落ち合う機会があり、そのときのムーディは名前を𠮟りつけたあの時間で気を落としていたそうだった。

「そんな、ムーディ先生は何も。…悪いのは私なのに」
「君はそう言うことも、皆分かってる。トンクスに聞くところによれば、自分で怖い思いをさせるのは二度とあっちゃならんだとかなんとか、零してたそうだよ?らしくない」
「、……怖いだなんて」

怒った表情で迫るムーディに全く圧倒されないわけはないが、ポリジュースで化けられ抑えられたあの恐怖とはわけも状況も違う。

「住まいへ戻れ名前。無理に堪えてわしと話すな」

名前は当初、接点を持たないよう努めたムーディを思い返した。もどかしく感じていると、しばらく眺めてルーピンが"君が数年前…"と口を開き、椅子へ腰掛け寛いだ。

「教室の呪文集を漁って、ハリーを守ると言っていたのに合点が行ったよ」
「…? …」
「我々が落ち合っていたのは君の魔法についてだ。まただんだんと分かってきたんだが… 闇の帝王の関与は無さそうだ」

名前はそれだけでも、心がすっとした。本当に?と小さく返す瞳は輝いてすら見え、微笑んで頷き、ルーピンは続ける。

「だが警戒は続けてくれ。そっちの線は断たれたが…ハリーの関与の線が出てきただけに安心できない」
「ハリー?、私の魔法と、ハリー?」
「そう。気を付けてくれよ。今度は私がマッドアイに叱られてしまう」

発つ前に会えてよかった!と忙しく立ち上がり出口を目指す。何か特別用があったわけでもなかったようで、トランクを近寄せ置いてけぼり気味の名前を振り向いた。
ただ立ち寄っただけなのもどこか意味深で、名前は再び緊張を掘り起こす。

「…魔法のことは聞かないほうがいいんですよね」
「いずれ知る。まずは安心できることを喜ぼう、名前。そうだ、クリスマスは?モリーが泊まりに来てほしいと言ってたよ。あの二人も」
「、ハリーも来ます?」
「…あぁ。来るんじゃないか?是非皆で過ごしなさい」

自分には何も聞かないでというようなルーピンに、踏み込むのは彼のためにやめようと名前は察した。
扉を開けて見送り、言ったのはルーピンであったのに、名前が"クリスマスに"と言うと、ルーピンは噛み締めるように、尊ぶように、大事に大事に返事をして、本部を去った。


…――

「(エル、イー、エー、…)」

自室、灯りのもとで リーバー、クリーチャー、ハウスエルフ、…思いつくすべてを『特別な解説』の小冊子から探したが、近しいものすら何も見当たらなかった。自身のことだから尚更、人知れず落ち合った面々が掴めたことが自分には何も分からないのは、また知らせられないのは、とてももどかしかった。
無理にでも聞くべきだったか…と考えていると、居間から、自分を呼ぶ家族の声が届いたので、返事をして本をしまう。クリスマスの向こうへ行く承諾は家族から無事得られたが、反応はよくなかった。心配や不安しか感じられない表情を思い返しながら、名前は家族のそばへ急いだ。

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