Half-Blood Prince-15
「名前」
「、…」
もう寝ようと、泊まるのに使わせてもらう、上階の一室に入る目前、階段の続きの下の階から、フレッドが呼び止めた。まだまだ寝ないらしい、着替えもまだのフレッドを、少し泣いて重くなった瞼で振り向き、控えめの笑みを返す。フレッドはこちらを見上げ、少し落ち着かなそうに、クリスマスカラーの小さな包みに両手をやっている。
「やっぱり、今日渡そうかなって」
「、 ありがとう… ジョージはいいの?」
「あぁ、どこ行ったんだか。いないんだよ。……」
名前は見下ろしながら、おかしくなって笑みを殺した。二人が相棒の居場所が、ましてや家の中で分からないなんて有り得ない。ジョージの様子もおかしかったし、フレッドだけで渡せるようにジョージが気を回してくれたのだろう。らしくない分かり易い行動は面白くも、落ち込んだ後の優しさが心地よくもあった。
「…中も見たいか?」
「、うん」
答えを聞いて嬉しそうに、フレッドは名前のほうへ階段を数歩あがって、大切にリボンを解こうと中腹に座った。名前もそばへ行こうと、同じく数歩、フレッドの座るそばの段まで降りた。心配をかけているなとか、嬉しい気持ちとか、フレッドとジョージを大切に思う気持ちとかが、一歩ずつ降りるにつれ、強くなった。
すぐ近くに名前も腰掛け、フレッドの手元に視線を落とす。開けても何も起こらないベロアのケースに、名前の好きな花を象ったネックレス。ウィーズリー家の温かい光をうつして、美しい魔法のように、様々な色が輝いた。息をのむ名前の顔を一目見て、フレッドはチェーンに触れる。
掲げてくれたので、名前も付けてもらおうと、髪をひとつに片手で持ってフレッドへ首を近寄せた。ゆっくりフレッドの手が離れ、首元に冷たい感触が伝わると、鼻の奥がツンとした。フレッドが離れず名前のそばに手を下ろす間、名前はネックレスに、大切に大切に触れる。
「素敵 ―」「愛してる。…」
「、」
同時に喋って、すぐ近くでパチリと目を合わすと、面白がるわけではなく、名前はほほ笑んで、応えるようにフレッドを見つめた。本当に私を?
なんの魔法が住まうか分からない、私を?
階段に座り普段と目の高さの違う、距離も違うフレッドの目が次第に閉じていくのに合わせて、名前も目を閉じる。すぐ近くで声も息も、体温も、頬から感じ取る。
「何があっても、…」
「もちろん」
「先生の話聞いたでしょ?」
「知らないさ。ずっと、名前は名前だ」
「、 そうね」
表情を見るように互いにふと目を開けてから、ふたたび閉じて唇を重ねる。
ホグワーツの小さな塔、何気ない日の廊下、広間、いろんな日々がふと蘇る。もっと早く気持ちが通じていれば、何か変わっていただろうか。闇の帝王に震える、今のような世の中でなければ、もっと心から喜べたろうか。
心の通じ合う嬉しい気持ちも、悲しい気持ちも、彼を尊く思う気持ちも、すべての感情が溢れ、涙が名前の頬を伝うのを灯りが照らした。
フレッドの予想通り、一目見た名前の目には涙があふれていたので、大丈夫と言い聞かせるように、思いが伝わるように、掛ける名前の腰を抱き寄せる。
名前もまた、失いたくない、離れないでほしい思いが伝わるように、フレッドの肩に手をやり、彼のぬくもりを刻み込んだ。
…――
灯りを消しても暖かに感じるこの家で、名前は安心して眠りにつけそうだったが、少し掠めた灰のような匂いに、すぐに上体を起こし窓へ目を向けた。
何の変哲もない夜空。それはすぐに姿を変え、突如起きた騒音と同時に眩しい炎が目に入った。