Half-Blood Prince-17
名前の手はがたがた震えるだけで、フレッドの手を握り返しはしない。駆け寄る皆の声にも、ジョージが頬に手をやって叫んでも、何も映さない、ただ戸惑うような瞳のまま、声が届いていない。ただ暗闇で、すぐそばから、ゆったりと語りかけられる。呼吸が浅くなり、やがて頭が霞み始める。
" お前は ―運命を 変えられると思っている "
「…! …!! …」
断片的に名前の頭に浮かびあがる、必死に伸ばしてもハリーまで届かない自分の手。杖を掲げる、ムーディ―の後ろ姿。
自分を庇って魔法の斬撃を受け顔を歪める、親友の姿。
居間のドアの隙間から見える、荒れた家具の隙間に倒れ込む家族の姿。
「や゛・ めて …!!」
「名前…! しっかりしろ!!」
「名前!僕はここだ!!負けちゃダメだ、惑わされるな!!」
「、? …」
懇願するようなフレッドと、ジョージの横に駆け寄り懸命に訴えかけるハリー。モリーは口を覆い、怯えるような目を見張っている。
" お前と お前の主は 敗北する"
「……!! …」
" 抗えるものなら …やってみろ …― "
意識が飛びかける狭間、名前はようやく、木が燃え割れる音と、皆の声が聞こえだした。見るからにフッと表情が和らぎ、疲れて眠るように名前は目を閉じ、フレッドの胸に落ち着いた。焦ったままのフレッドがバッと見下ろした、強張っていた名前の手が弱々しく、ようやく握り返した。
緊張が走り続ける中、しばらく沈黙に包まれた。フレッドジョージは深刻な表情のままハリーを振り向いて、説明を乞うた。
…――
ホグワーツ。廊下を並んで進みつつ、新聞に目を落とすハーマイオニーにハリーは叱責を受けた。新聞は、魔法省で続出している行方不明事件を報じている。
「軽はずみよ。名前もあなたも殺されなくてラッキーだわ」
深刻な状況を自分でも分かっていたため、ハーマイオニーに少し強く言い返してしまったが、ハリーはすぐに謝る。一瞬押し黙ったハーマイオニーに、ハリーは名前の異変の話はやめておいて、咄嗟に続けた。
「名前が、…ロンと君なら大丈夫と」
「何? …何か話したのね?」
「違うよ。名前だよ?話さなくても分かる」
ハーマイオニーが不在で、まるで気を付けるようにまったく彼女の話をしないのは、世の中の状況以外にもなにか理由があるなと、夕食の席で名前は感じ取り、合わせて自分も話題に出さなかったが、食事を終える少し前に、ハリーにだけそう話していた。笑顔を交わしていたあの夜が、恐ろしいものになるとは、そのときはまだ分からなかった。
"私のウォンウォン!"
見図るようにして、ラベンダーとともに座り込むロンの近くを通りかかる。髪を撫でたりひっついて笑顔を交わす二人に、ハーマイオニーは"失礼、吐き気が"とハリーに告げて、ハリーをおいて道を引き返した。
ハリーはその夜、校長室の篩でトムとスラグホーンの記憶を見せられ、改ざんされた記憶の真相を本人から聞き出すよう言い付けられる。
「真実の記憶がなければ目隠しされたまま、…戦う"すべ"も分からぬ。名前まで浸食され始めてしまった…… やるしかないのじゃ。失敗は許されん」
ハリーの脳裏に苦しんで倒れ込む名前の姿が蘇る。意を決したように、戸惑いも消せないまま、ハリーはダンブルドアに頷いてみせるしかなかった。
そしてフェリックス・フェリシスの力を借りて、ダンブルドアと共に 記憶の瓶の欠けていた箇所、分霊箱の答えに辿り着いた。
真相に近づくにつれ、ドラコの関与も明るみになりつつあったが、スネイプの動向は一向に謎のまま、警戒が解けないまま、ハリーはダンブルドアと、闇の魔法の痕跡へ向けてホグワーツを発つ。
…―
「では腕を」
ゆったりと夕方の日の射す天文台、辛辣な旅の条件をハリーがのんだのを見届け、ダンブルドアが腕を差し出した。
「…学校で"姿現し"は不可能では?」
「わしだけは特別でのう。あぁわしと、"リーバー"もな」
「…」
「条件に、ひとつ… 名前を信頼して疑わないことも、誓いなさい」
ハリーはふと困惑したが、刻み込むように答える。ダンブルドアの納得の表情を見てから、腕に手を掛けた。天文台の一角に一瞬の騒音が走り、二人はその"痕跡"を目指した。