Half-Blood Prince-18



波が激しく打ち寄せる大きな崖の裂け目。暗く濡れた地を進み、"通行料"と刻んだ手の平を崖の壁にかざして、崩れて現れたさらに暗い洞穴を進む。
杖の灯りがないと到底何も見えない穴の奥に、湖はあった。暗がりの一番奥、ひっそりと佇む水晶の柱に溜まったおぞましい水と、それに使うように添えられた器。二人は柱の中を見やる。水に軽く手をかざすだけで、闇の魔力が警戒して鳴くように、水面に波紋を作る。

「中に分霊箱が?」
「ある。……飲み干さねば」

…――

ダンブルドアが忠告した通り、飲み続ける間ダンブルドアはみるみる恐ろしいほどの変化を見せ、"殺せ""悪かった""やめてくれ"と涙ながらに続け、言いつけを守り水を飲ませ続けるハリーの心を深く、残酷にえぐる。
やっとの思いで飲み干した後、ダンブルドアはもとの声色に戻り、気を保つ。水をとだけ告げられ、ハリーは心から安堵し、忙しく再び水晶の柱の中を見た。
今まで確かに無かった、黄金色のロケットが、ぽつねんと入っている。回収して、魔法で出した水を器で何度すくおうと、不思議と器に入らない。
静かに 水を、とだけ繰り返すダンブルドア。彼の衰弱を表すように、灯りも小さくなりだした。慌てたハリーは湖を振り向き、少し迷って、器を湖に近づける。
灯りは弧を描いて、投げた石のように湖の中に消えた。暗く、シンと音がしそうなほど静まり返った空気を、ハリーは警戒した。
自分の杖で灯りを出し、再び恐る恐る、器を近寄せる。

―バシャ!!!― 「うっ!?」

湖から突如伸びた、焦げたような細長い腕に手首を掴まれ、思わず声を上げ、ハリーは急いで離れた。水中で騒ぎを聞きつけたように、ハリーとダンブルドアのもとにみるみると、干からびた亡者が何人も這い上がってくる。弱々しくハリーを呼ぶダンブルドアの声。力を振り絞る手に、あと数センチ杖まで届かない。
ハリーはダンブルドアを守りながら、亡者へ向けて呪文をいくつも繰り出し撃退する。やがて数にのまれ、湖にハリーの体は落ちる。
背後から抱えるように強く抑えられ、水中で身動きも取れない。

「〜〜〜!!  〜〜…!」


―ザパン!! …―
「…―」

ハリーが落ちていったあたりをかろうじて見ていたダンブルドアの目に、水面が突如不自然に跳ねたのが写った。そこにだけ波が起きたように、こちらに知らせるように、はねて、ザパン!と、二度だけ跳ねた。

「… (あぁ、 分かったよ)」

深い深い底まで引きずり下ろそうと、亡者の腕の力は緩まない。ハリーが懸命に足掻いていると、見上げる水面の向こうが業火に包まれた。ほどなくして火がひとつ、柱のように水中を進み、ハリーの背後の亡者を貫いた。
軽くなった体で水中から抜け出すと、ダンブルドアの杖によってあたり一帯も、水面も、みな炎に包まれていた。やっとの思いでダンブルドアへ駆け寄り、洞穴を立ち去る。
姿現しで、すっかり夜の更けた天文台に戻ったころ、ダンブルドアは完全に疲弊して、支えるハリーに寄りかかりきっていた。同じ頃、校内では、ドラコが必要の部屋へ向かい、キャビネットに手を掛けている。


「病棟に運びます。マダム・ポンフリーに…」
「いや、。…セブルスじゃ。…セブルスを呼べ。彼にわけを話せ。ほかの者には言うな」
「……、…」

わけを聞きたそうなまま、ハリーが走り出すと、下の階から、こちらへ向かっているような物音が届き急いで立ち止まった。ふたたびダンブルドアを振り返る。

「、…下に隠れておれハリー。わしが許すまで下に居るのだ」
―ガタン、 …バタン ―
「従えるな?」
「…」
「信じよ。 わしを信じよ」

「…」

戸惑いの目をしばらく向けて、ハリーは言われた通りに駆けだした。見届けて、ダンブルドアは洞穴で見た不自然な波を思い返す。

「(信じよ、ハリー。…君には名前がついておる)」

足音の正体は、闇の紋章を腕に刻んだドラコだった。続々あらわれた、ベラトリックスにデスイーターの面々。明らかに自分の心を抑え苦しみながら、ダンブルドアへ杖を向けるドラコ。言われた通りに下で息を潜めていたハリーは音も無くスネイプと鉢合わせる。ハリーは制止され、信じていいのか歯向かうべきか、戸惑ったまま、言われた通り手を出さないでいると、スネイプは上の階へ足を進め一言、ドラコを止めた。柵の狭間で、ダンブルドアとハリーの視線が重なる。

「…―」
「セブルス。 頼む」

―アバダ・ケダブラ―

「――― !!!」

スネイプの放った閃光に、ハリーは目を見開き息をのむ。
撃たれたダンブルドアの体が脱力して、なすすべなく天文台の下へ落ちていった。

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