Half-Blood Prince-20



優しく日の射す隠れ穴の上階の窓際。名前は木片をうかがうように少し屈んで眺めていた。黒く焦げ、火を浴びすぎたそれはもはや炭に近かった。
下の階を修復していたアーサーが階段を上がり通りかかったとき、名前の指の音が耳に届きそちらを振り向いた。

―パチン、―  ―ガタッ、コトコトッ!―

指の音に返事をするように炭たちは跳ね、ウィーズリー家にずっとあった小さな椅子が元通りになった。焦げは消え失せ、塗料を塗ったばかりのようにつやをつけ、誇らしそうにも見えた。名前は少し笑って、アーサーを振り向く。

「… このくらいなら許されます?」
「 、いやぁ、ありがとう。助かるよ」

柔らかく笑う名前の目は赤く、その下にはうっすらクマが見える。訃報を聞くより以前、襲撃の夜からずっと、静かになると再び彼の声が届きそうな恐怖心にかられていた。また思考を奪われそうで、すぐそこで囁かれそうで、何日も熟睡できなかった。
こうなった名前を元の世界でマグルの家族とともに過ごさせるのは危険だと、一家は、夫婦と、フレッドジョージとで、名前とともに名前の家族を訪ね、保護させてほしいと申し出ていた。短時間で、酷な選択を強いられる家族。次はいつ会えるのかも分からない、どちらも平穏に過ごせるのか分からない不安が、家族にも名前にものしかかる。
最後になどきっとならないと信じても、最後になるのではと不安は過り続ける。同じように悲しむ家族を惜しむように抱き締めて別れ、名前は隠れ穴の、借りた一室で過ごしていた。
前に本部でやったように指の音ひとつで家屋全体を直すのは、居場所を知らせてるも同然で危険すぎた。名前は沈む気持ちを掘り起こさないよう努めるように、修復はこういった、少しの手助けに励んだ。
モリーをうかがい、今朝はダンブルドアの訃報が届き、アーサーだって心からの笑みは、返せないものだった。

修復のだいぶ進んだ階の、窓に面した小さなテーブルに、三人集う。

「こないだ来てくれた、あの日で私の家族は覚えたでしょう?」
「あぁ」「もちろん」
「二人にお願いがあるの」

名前の真っすぐな、真剣な表情に日が射しこむ。フレッドジョージは順に答えて一度、何事かと顔を見合わせ、あらためて息をつく名前を見つめ返す。

「私にもしもの事があったら、家族にオブリビエイトを唱えて」

忘却呪文を、あの家族たちに。
意を決すように、息を震わせて真剣に頼む名前に、二人は押し黙ったが、名前をじっと見たまま、フレッドが口を開いた。

「ああ いいよ。じゃあ今すぐ俺にオブリビエイトを唱えろ」
「、…」

フレッドの返答に、今度は名前が黙り、思わずたじろぐ。様子をうかがってジョージが遮るが、さらに遮ってフレッドは真剣に続ける。

「よそう フレッド、名前は…」
「、それほどのことを言ったんだぞ?名前、お前は今」
「……」

言い聞かせるように話すフレッドの真剣な表情をうつす、名前の視界が潤んでいく。まっすぐ見つめてはら、と頬に涙を落とす名前の顔を見れば、当然本当は家族にそんなことはしたくないのに申し出てるのは明らかだ。
でも帝王の声が直に、自分だけに届けられ、迫る危険が露わになっている今、もしものことは考えずにはいられない。それで至った、二人への申し出だった。頬を拭いもせず、じっとこらえる名前に、"あの夜、…"とフレッドが続ける。

「どんなに怖かったか、様子で分かるようでも直面したのは名前だし、代わってやれないさ。…でもいっしょに耐えさせてくれたっていいだろ?それできっと勝てばいいんだ」
「……」

「そうだよ、名前。もしもの事があったら なんて言うな。君には俺とフレッドがついてるんだから」
「………」

優しく、いつも通り柔らかく返すジョージ。相槌もありがとうと言いたい声も、嗚咽が邪魔をする。
名前は二人の目を確かに見て、こくこくと頷くほかなかった。言ってのけてくれる二人が、ずっと二人らしくあってくれて名前は救われ、弱った心によく沁みた。見守る二人は、少し安堵の表情を浮かべる。

「それにどんなに強く唱えられたって俺は名前を忘れないぞ」
「俺だって」
「…、 ふふ」
「名前を見つめて、運命だ、ジョージこの子と手を組もうって、きっと話すだろうさ」
「はじめて君を見た、昔みたいにね」

涙をふいて目を覆う名前の、口元は二人の調子で笑っている。二人の優しいまなざしが、目を覆おうと分かる。
ようやく不穏な空気をひととき拭えた、同じ穏やかな空の下で同じ頃、ハリー達は偽物だったロケットを握り、分霊箱の捜索を決心していた。


- ハリー・ポッターと謎のプリンス - 終

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