Deathly Hallows(Part 1)-7
真っ暗な隠れ穴の外一帯に、音はない。ドアを静かに閉め歩き出したハリーを、追いかけるようにドアが再び音を立てたが、ハリーは振り返らない。どこへ行く?と、追いかけたロンが声を掛けてやっと、ハリーは来た道を振り返った。つい先ほど見た名前の悲しむ姿も、ジョージの大怪我の様も、鮮明に脳裏に浮かぶことで、自然と声に力がこもる。
「…もう 僕のために誰も死なせない」
「…」
戸惑うロンを置いて、ハリーは難しい顔で再び歩きだす。ロンはハリーへ投げかけ続ける。決意で強い足取りのハリーとは違い、彼を慌てて止めるような素振りは見せず、ゆったりと歩み寄りながら。
「… 君のため? 君のためにマッドアイもジョージも戦ったと?」
「……」
「君は"選ばれし者"だけど、戦う理由は もっと大きなものだ」
ハリーは足取りを緩め再び、暗がりで親友を振り返る。言葉の重み通りの深刻な表情はほぐれそうにもないが、ロンも同じく真剣に、ハリーを真っすぐに見ている。
ハリーはようやく、友に縋った。
「…僕と来て…―」
「ハーマイオニー抜きじゃ二日ともたないぜ。それにこっちには今、彼女も居るだろ」
「……」
「"あの三年生"もさ。……」
あ、と言うように家を一度振り返り、"本人達には言うな"と釘をさす。
「君はまだ"におい"付きだし、ビル達の結婚式も―」
「式なんか出てる場合じゃない…。誰のでもね… 早く分霊箱を探さないと。やつを倒す唯一の手だ、急がないとやつは力を増す…!」
「今夜はよせ。やつの思うつぼだ」
冷静なロンは、正しかった。ハリーの泣きだしそうなほどの焦る気持ちも、自分を責める気持ちももっともだった。ハリーはしばらくロンを見つめ、正論を飲みこみだし、観念するように、背負っていたリュックをずり落とさせた。ロンはすかさずそれを取り、何食わぬ顔を見せつつ背負う。その頬にも、まだ新しい戦いの傷が、残っている。
今度は二人並んで、家へむかってゆったりと歩いた。
「…やつには分かるのかな。分霊箱はやつの一部だろ?」
「………」
「君たちが指輪やリドルの日記を壊したとき、何か感じたはずだ。残る分霊箱を破壊するにはどうすればいい…?どこから探す?」
見当もつかないのは、誰もが同じだった。ハーマイオニーも名前もついているが、今までに分霊箱を探し出した頼みのダンブルドアは、もうこの世に居ない。
何も返せないまま、二人は扉を再びくぐり、また静かにパタンと閉じた。
…――
ビルとフラーの結婚式当日の早朝。階段を降りたフレッドの前を、食器も飾り付けも自分たちの着替えも、魔法で運びながら忙しそうなモリーが横切った。
「おはようフレッド、あなたも手伝って」
「母さん、名前見なかった?」
「キッチンよ。ワンピースが汚れるからやめなさいって言うのに聞かないのよ」
何かしてないと気が紛れないのよね、と、モリーはまるで我が子に呆れるような顔を見せてから、再びバタバタと準備を急いだ。名前らしくはあるがとフレッドも笑って、一階を目指した。
窓に面したキッチンに確かに名前は居て、自分の家のように慣れた手つきでスプーンを取ったり、あたりに調味料をサラサラ漂わせたり、手際よく準備をしている。髪もドレスワンピースも既にお呼ばれ仕様な身に、着ないと許されなかったのだろう、モリーのエプロンをつけている。
見つけてもしばらく声も掛けず、フレッドは見惚れるように数歩後ろからほほえましく眺めていると、名前が片手あたりだけをパッと向いた。
「味見してくれる?」
「! …」
見もせずに気付いていたのか…とフレッドは驚き、返す言葉を選びつつ踏み込んだところで、先ほど名前の向いたほうからまだ部屋着のジニーがやって来た。
名前が優しくジニーの手の甲へソースを落とすと、ジニーが口に含み、表情に花を咲かせる。美味しい!と聞けば名前も笑みを返した。よかった、モリーさんのレシピがいいから…なんて話している間に、俺じゃなかったのかよと、フレッドは勘違いに居心地を悪くしていた。
「、 …おはようフレッド」
「! フレッド。おはよう」
フレッドを見た瞬間、察しがついた様子で楽しそうなジニーと、本当に今気づいた様子で振り返る名前に、フレッドはあぁ、とだけ返したので、名前ははてなを浮かべながら、くすくす笑うジニーと見比べたりなんかした。