Deathly Hallows(Part 1)-12
日中でも心地いい日は差しにくい、ノクターンとダイアゴンの狭間。狭い路地に差し掛かると、名前は目を疑った。路地の片隅の、裏口のドアに面した少しの階段に座り杖を肩に掛けるムーディは、なんともないというように平然と名前を目に入れた。名前は急いで駆け寄り近くで気を付けて、彼を髪から爪先まで確認する。先生?と小さく呟けば、頬へはらはらと涙が落ちる。
「名前。どうしたんだ?」
「どうしたんだですって…!?〜〜〜っ…」
「あぁ泣くな… 何か辛かったか?」
「っ…当たり前でしょっ…!先生、何してたのっ…!?」
「…」
「私がどれほど…〜!!」
ムーディは本当に分からないというように、座り込んだまま名前に目をやる。肩を上下させ小さい子のように抗議する名前に、半ば温かく笑みを浮かべながら。その優しい笑みにすら、名前の涙をさらにこみ上げさせる。
「何をそんなに悲しむ?共に居るじゃないか」
…――
夢でも泣いてた名前は、覚めても頬を濡らしていた。フレッドとの別れを泣いている間にそのまま寝てしまっていて、昨日訪れ背を預けていたその場でそのまま横になってしまっていた。朝日が差し始めてもひと気は相変わらずないこの漏れ鍋の上階で、敵襲がないかと眠りは自然と浅く、夢も鮮明に名前の頭に残っていた。むくりと上体を起こし、顔を覆って、夢の余韻の中まどろみを徐々に離れる。
孤独を悲しむ名前のもとに、共に居ることを教えに来てくれた。
意を決すように、バッ、と両手を下ろし、建物のどこにも、誰も居ないさまを十分に警戒しながら、一階を目指す。ハリーの元へ急ぐほかないが、術も、どこだか見当もつかない今、名前は夢で見た場所へ向かう必要がある思いに駆られた。
まるでずっと此処の住人であるかのような慣れた足取りで、隅のキャビネットを開く。ここに宿泊客のコートが、そのまま忘れ去られているものも多数掛けられていることも、その隣にくすんだ古い壁掛け鏡があることも、名前は昔から知っている。サイズの大きすぎない、古びれすぎていない一つを"失敬"して、結婚式から着たままのワンピースの上から羽織り、鏡の前で少し整えた。よし、と一呼吸おいて、名前は夢でムーディと再会を果たした、その路地を目指した。
魔法の知識を与え、作戦の夜に命を助けられた"運命に関わる人"が座り込んでいたあの階段が、どの路地のどのあたりかも、何年もここらを通った名前には容易に分かった。
…――
同じ頃、昨夜逃げ込んだ旧本部で、ハリーもまた目覚めた。
シリウスの部屋で、バチルダ・バグショット著の魔法史をハリーが手にしたところで、起きたらしいロンが遠巻きから呼び掛ける。同じ屋敷の一室に、ロケットの偽物のメモに残された "RAB(レギュラス・アークタルス・ブラック)" の名を見つけたためだった。
広間で掛け、改めてメモを読み上げる。このRABをその一室の名のものとすると、この屋敷に本物があった可能性と、破壊を既に成し遂げている線が浮上した。
「RABはシリウスの弟か」
「そうよ。 …本当に分霊箱を壊したのか… ―」
― …カタン、 ―
点が結びつきそうな中、突如小さく耳に届いた物音に、三人は慌てて後方を見やる。一気に全身に緊張を走らせ、ハリーが物置の扉へ恐る恐る進む。
勢いよく開けると、息を潜め隠れていたクリーチャーを乱暴に引っ張り出した。
半ば脅すように、ハリーはロケットを掲げ事実を聞き出せば、クリーチャーは小さく、徐々に答え出した。
「この家に ございました…」
「…」
「レギュラス様に破壊せよと命じられましたが、…ロケットはどうやっても壊せませんでした」
前のめりに聞き出すせいでじりじりと詰め寄るハリーに、同じ調子で後退るクリーチャー。ロケットのことを思い返し何か恐怖するかのように、時折虚無を見つめ、自身の身を擦った。
ハリーは急くように所在を問うが、夜中に忍び込みなんでも盗んでいったなかに、本物のロケットもあることも告げた。
「誰が? 誰のことだ、クリーチャー」
「… マンダンガスです。マンダンガス・フレッチャー。…」
「…」
後方のロンとハーマイオニーは顔を見合わせる。捜せ、とハリーが告げるとクリーチャーは何も言わず、少し嫌そうな態度すら見せ、縮めた身もそのままに 姿をくらました。