Deathly Hallows(Part 1)-20
ロケットはどう呪文を投げようとも、衝撃にはじかれるだけで傷一つつかなかった。ハリーは破壊するまで持っていると、一度区切りをつけてロケットを首から掛けた。
「ダンブルドアは君に分霊箱を探させておきながら、破壊の仕方は教えないなんて変だよ」
「…」
ハリーの頭には、昨日のことのように、偽物のほうだったロケットに辿り着いた日のことが蘇る。炭のようになってしまったダンブルドアの手のことも。なにも知らないくせにと、ロンを見やる目に怒りの色がうつるが、何も返さずハリーは距離を置こうと歩いた。
肩から腕をつるしたロンは顔色も悪く、見るからにすぐれない。
「ッ…―」
しばらく距離をとり、座り込んで森を眺めるハリー。ロケットに少し触れると、それだけで、ハリーの人生で目にしていない、ヴォルデモートの記憶が流れ込んだ。
襲われ震える杖店の店主、ニワトコの杖を盗み逃げる若い男の姿、服従を誓わせようと髪を掴み上げ苦しめられる、名前の泣きわめく姿。
―"アバダ・ケダブラ" …―
「まだ続いてたの?」
ハーマイオニーの声に、景色は元の姿に一変する。
心を開いてはダメ。歩み寄るハーマイオニーに、ハリーは次第と落ち着きを見せた。説明しながら、テントから聞こえるラジオの音に苛立ちを露わにするハリーのことも、ハーマイオニーは制止する。
彼女は、ロケットを交代で持つことを提案した。ロケットがそうさせていると、回避策に出たのは早かったものの、既に亀裂の予兆は、三人の間に見えだしていた。
その夜。静寂の中、見張りのハーマイオニーの耳に、誰かの足が向こうで枝を踏み割った音が届いた。テントではハリーが、ロンがつけっぱなしで寝てしまったラジオを消そうと、一度起き上がる。
"…―… セブルス・スネイプがホグワーツ校長に就任。…生徒は新たな校則に …―"
"…―様変わりし…カリキュラムは闇の帝王の意向を反映 "
"違反者は死喰い人が罰します。 …―"
「……」
消そうとしたラジオをそのまま、テーブルに広げた忍びの地図に、ハリーは目を落とす。校長室を歩く、スネイプの足跡。ハーマイオニーは同じ頃、保護呪文内で、音の鳴ったほうへ足を運び、絶句した。
図らずともすぐそばを、人さらいの数人が通過した。獲物であろう気を失ったぼろぼろの女性などを運び、その後ろに続く仲間は、名前を拘束した鎖を引いている。
「―――、…!!」
存在が割れないように息を潜めたまま、ハーマイオニーは眩暈を堪える。鎖の先、名前の両手は、太いベルトで何重にも、鳴らすどころか、関節も折れなそうに縛られている。抵抗したのか頬も服も、気を失う女性と同じくらい汚し、不服そうに連れられながら、通り過ぎる。
「…なんだ?」
身動きの取れないハーマイオニーのそばを数歩進み、名前の鎖を引くスカビオールが立ち止まった。何の姿もない森を見渡し、またハーマイオニーのほうへ戻ってきてしまった。名前に繋がる鎖が、ジャラと鳴って振り返ったとき、名前の表情がハッとした。
「何の匂いだ…?」
「 … (ハーマイオニーね…?)」
「…!」
スカビオールの死角、誰の目にも見えないところで、匂いで分かった名前は声もなく口を動かす。姿がなく目は森の木々をとらえていようとも、気付いてくれた名前に、ハーマイオニーは今すぐ飛び込みたい衝動に駆られる。堪えていると、名前は指の曲げられない手を口元にやった。
"お口チャック"、 ―コクン―
泥に汚れた姿には不釣り合いな、希望に満ちた、安心させるような表情。幼い頃、母校の階段でも、彼女はそうやって此方を安心させた。ハーマイオニーは名前の素振りに、此方を守る行動に、胸をいっぱいにした。
"何してる?" "重くて…" "俺に運べと?…"
人さらいと、名前が遠のいた。ハーマイオニーは言い付け通り黙ったまま、呼吸も忘れてその場をしのいだ。
ハリーが、隣にやってくる。
「人さらいだ。……魔法と 名前に助けられた」
名前の姿や、仕草は、ハリーにも届いていた。名前の言い付け通り、退いて探索とロケット破壊に努めるのが得策ではあったが、案じていた名前の救出を見送るのは、ハリーもハーマイオニーも、苦渋の決断だった。