Deathly Hallows(Part 1)-23
「……」
朝日の射しこむ貝殻の家の一室。名前はフラーの寝巻に身を包み、肌のどこも清潔に、寒い思いもせず健康に、上体を起こしてふかふかのベッドに身を預けている。波が遠巻きに耳に届き、そばの小さなチェストの上にはフラーの美味しい朝食が運ばれていて、スープから湯気が優しくたっている。
万全に戻るまで一日とはいかなかったが、もう悪いところはどこにもない、安全を求めて逃げ込んだとは言え安全すぎる環境に、正気を戻した名前は、今度はかなり戸惑った。
部屋の隅の椅子には、名前の数日分の服が。"名前が来たら持たせて"と、子供のすべてを見通し、案じる中でも子供の思いを尊重するモリーが、フラーに預けていたらしい。見せる顔がないと感じていた相手からの優しさに、知ったときは涙せずにはいられなかった。
モリーも、騎士団の皆も、下の階に居るビル達夫婦も、こんなにぬくぬくと、安心して生活は送ってはいないだろう。分霊箱を追うハリー達はもちろん、一層危険も休まず襲っているだろう。元の世界の家族たちも、家で過ごしているかすら、なにも知らない。
ベッドサイドの机に置かれた貝殻に、大切に置かれたネックレスを取り、目を落として花の形を撫でる。
もうビルは、フレッドに伝えてしまっただろうか。今すぐすがってしまいたい、あの温もりに包まれたいと願う気持ちは本心であっても、心に決めてああして離れた以上、彼に甘えられない。なのに今、何をしているかというと、…と、名前の自責の念は止まらない。
現にハリーを心の中で呼べば、不安と心配が意識全体を覆う。
もう十分すぎるほど助けの手は借りれた。算段を立てなくてはと、名前は勢いづけてベッドを出た。
バグショットを乗っ取ったナギニとの戦いを経てグリンデルバルドの真相に辿り着いたハリーとハーマイオニー。名前がそうしていたころ、こちらはというと、氷の川底に姿を現したグリフィンドールの剣でハリーとロケットの破壊に成功した、戻って来たロンに、ハーマイオニーが心配した分以上の怒りをぶつけているところだった。
…――
テントの寝床に腰掛け、火を眺めながら話すロンとハリーは、口論の前の二人に戻ることができ、ハーマイオニーだけが依然としてロンに怒りを向けていた。その証拠に、外からテントに戻り"話があるの"と切り出して、優しく返すロンにすら、むっとした顔を向ける。
「…ゼノフィリウス・ラブグッドに会うわ」
「なんだって…?」
突拍子もない、ルーナ父と接触の提案に、ハリーは眉を寄せる。見て、と広げる 、谷で手に入れたリータの本も、ハーマイオニーはハリーにのみ向ける。参考資料のように文中に挿し込まれた、ダンブルドアがグリンデルバルドへあてた手紙の写しだった。
「またあの印よ。あちこちで見た。ビードルの本、ゴドリックの谷の墓石…!」
「ほかにも見た… グレゴロビッチの店」
ハリーの頭に、鮮明に蘇る。ロケットに触れ記憶が流れ込む際に見えた、杖の店先にも、その印は掲げられていた。
どういうこと?と零すロンのことは、完全に置いていっている。
「残りの分霊箱のありかは分からないけど、この印には絶対に何か意味がある」
「そうだ。ハーマイオニーは正しい!」
どんなに置いて行かれてもロンは調子を合わせて輪に入る。ロケットに蝕まれない、これでこそロンだ。
ハーマイオニーはずっと怒っているし、依然として名前の安否が分からない中であったが、三人と、世界の深刻な状況にも光が差し込んだ。