Deathly Hallows(Part 1)-29
隙をつくようなルシウスのことは、再びハリーが、奪い返した杖で吹き飛ばす。小高い柵に居るドビーのそばまで皆無事に駆け付け、ベラトリックス達を警戒した。
「どこ行くんだよ…!もっと俺と遊ぼうぜ!」
「名前の顔見知り?」
「いや 誰だっけ?忘れちゃった」
「バカな妖精め!! 殺す気かい!?」
ドビーは差した狂気じみたデスイーター。挑発的な名前にその表情は怒りを帯びたが、焦り切ったベラトリックスの声が遮った。デスイーターもまた、標的が簡単に指ではじく、魔法使いを近くに複数携える名前には、彼女の杖を持って居ようと攻撃を仕掛ける気は失せた。皆より前に出て、ハリーと並ぶ。
「ドビーは絶対殺しません。深い傷を負わせるだけのつもりです!」
―シュゥゥ…!― ―ぱちん!―
力を込めたナルシッサへ、軽やかに指を鳴らしてドビーは簡単に杖を奪った。二人の魔女の表情が、信じられないと驚愕した。侮辱され尽くしたと、頭にきたベラトリックスが怒鳴る。
「よくも魔女の杖を奪ったね!?ご主人様に立てつくとは!」
「…ドビーにご主人様はいません」
皆のそばで胸を張るドビーを、名前は振り返って見上げ、続く言葉に胸をいっぱいにした。パチと見下ろすドビーは、見上げる名前のことも、ハリーのことも目に入れる。
「ドビーと"リーバー"は、自由な妖精です…!ドビーと"リーバー"は気高く、ハリー・ポッターとその友人を助けます!」
合図にするように伸ばされたドビーの手。皆が身を寄せ手を重ねたのと、ベラトリックスがナイフを振りかぶったのは、同時だった。投げ入れるように勢いよく、ナイフを投げる。
姿くらましの渦に目を凝らすベラトリックスの狙い通り、放ったナイフは渦に飛び込んで、彼らと同じように姿をくらました。
…――
貝殻の家のそばの浜まで逃げ切った一行。夜明けに霞む、館より幾分明るい世界に戻り、名前は体を起こして立ち上がると、再び水平線へ目を向けた。背後から仲間たちの声を耳に届けさせながら、ドビーと会わせるためにまるで腕を引いて止められたようだった、守護霊の様子を思い返した。
ありがとう、引き止めてくれて。ハリーと合流でき、難を逃れたと安堵の息をついた。
" ドビー… !? "
「…?」
少し先の波のほうから届いたハリーの声が、戸惑っているように感じ取られ、名前は振り返る。ドビーを抱え込むように膝をついていたので、歩み寄って向かいに屈み、"どうしたの"と口を開きかけたところで、名前とハリーの膝の間にドビーの体から抜いた、血濡れたナイフが落とされた。
「――… !?」
「ドビー しっかりして…!頼む!」
「……ドビ… ?」
「頑張るんだ、ドビー 治してやる!」
潤みゆく視界で捉えるドビーの表情は、次第に瞬きを重くしていく。
どうしよう、こんなときにはどんな呪文が、?傷を治せばすむとは思えない深手に、名前は鳴らせない指を構えるのはやめ、ハーマイオニーに助けを求める姿も見ていられず、その手をハリーに添えた。
皆を無事送り届け助けになってくれた友達の、命の灯が小さくなっていく。俯くハリーと名前に、小さな小さな声が届いた。
「…何と美しい場所。 …自由の 象徴と…友達に囲まれて…」
「……っ …っ 」
名前の優しい手を感じ取りながら、ドビーを映す視界の隅で、向き合う名前の涙がはらはら落ちる。ハリーの手を握る小さな手は、無残にもみるみる冷たくなっていく。
「ドビーは、 幸せです…友達と、一緒です……
ハリー・ポッター …」
そう残して、ドビーの命は終わった。あんなにたくさんの様子を見せてくれた表情も、彼の体も、少しも動かなくなってしまった。
今にも喚いてしまいそうなハリーの呼吸を耳にしながら、名前はずる、とだらけた両手で顔を覆い、項垂れて涙を流した。
目を閉じてあげたほうがいいよね。優しくハリーへ問うルーナの声が、ドビーの死を一段と確信させた。
「ほら…眠ってるみたい」
ドビーを悼む悲しみが一帯を包み込む。誰も何も言えないでいると、息を気を付けて落ち着かせたハリーが、埋めてあげたいと声を上げた。
「…、…、」
「きちんと。魔法を使わず。 …」
名前はぐしゃぐしゃの顔を向け、ハリーに頷いて見せた。見つめ返すハリーもまた瞳を潤ませて、もう一度、ドビーを強く抱き締めた。
朝の優しい風と日差しが包み込む丘の野原を掘り、名前も、ハリー達三人も、魔法を少しも使わずに、ドビーの体に土を優しく優しく乗せて弔った。
息をつきしばらく目を閉じると、彼ら三人にしようと、名前は静かにその場を後にし、先に家のほうへ降りた。
友の死のショックは大きく、一歩一歩、踏みしめる足取りすら、なんだかふわふわした、不自然さを感じさせる。ぼうっとする心地の中、大切な人が命を落とす、時代の恐ろしさを感じ取る。
名前がそうしている頃、朝日の届かない漆黒のホグワーツの湖畔では、墓石が不気味に転がりどかされていた。
ダンブルドアの亡骸に忍び寄ったヴォルデモートの手に、ニワトコの杖は握られてしまった。
- ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 - 終