Deathly Hallows(Part 2)-3



並ぶデスクに向かうゴブリンたちと、大きなシャンデリア。唾を飲みこむのすら大きく響いてしまいそうな静寂のグリンゴッツ銀行に、一歩足を踏み入れれば全員の緊張が急激に高まった。
ハリーのゴブリンに回された腕にしっかり掴まって連れ添う名前。習った通りの歩き方のハーマイオニーがヒールにつまづくとその手に力が入ってしまったが、なんとか音は立てずに済んだ。
ハリーと歩調を合わせ、あうんの呼吸で、すれ違う魔法使いを問題なく避ける。ハリーと名前は、その忍び足の立てる音すら厳禁である。

ペンへ目を落とすゴブリンは、ハーマイオニーの咳払いに見向きもしないまま"身分証明は?"などと返していたが、頑なな回答にやっと顔を上げ、ベラトリックスの姿をみて姿勢を改めた。
奥へひっこむゴブリンへ"待たされるのは嫌いだ!"とは、ハーマイオニーのさすがの機転であったが、グリップフックは潜めた声を周囲の数人にだけ聞かせる。

「(偽物だとバレましたぞ)」
「「……」」
「(警告されていたか…)」

仮装のロン、透明マントの中のハリーと名前、全員で動揺の表情を浮かべる。振り返ったロンの視線の先、銀行の隅から、複数居る警備の一人がこちらへ歩み寄っていた。

「(…っ… ハリー…どうする…)」
「……」

ロンの十分潜めた声は、震えている。すると再びゴブリンはもう一人、ボグロッドを連れて戻ってきた。

「マダム、杖を拝見しても?」
「なぜだ?」
「当行の方針です。このご時世なのでご理解を…」

―ックン、― 「、!」

ハリーは名前の掴まる腕の片方で少し合図して、ゆっくり前進しだした。訳も分からず名前も、歩調を気を付けて合わせる。何をするつもりなのか、はじめに居たゴブリンも、ボグロッドのそばについたまま、十分こちら側も視界に入る。

「嫌だ。理解したくもない!」
「恐れながら お願いいたします」
「……!」

警備の者は背後からゆっくり歩み寄り続ける。何か手を打つべきか若干震えて焦るロンの目が、透明マントから少し出された杖をとらえた。

「("インペリオ"…)」
「「…!」」

唯一の死角ともいえる壇上の物陰のほんの隙間から、ハリーはボグロッドの目の前へ向けて魔法を漂わせた。掴まる名前、ロンとハーマイオニーも目を見張る。

「結構ですマダム。ご案内しましょう」
「!?」

にこやかに通すボグロッドに、そばのゴブリンは大きく振り向いてしかめて見せた。あとの者は安堵で密かに表情を緩め、案内のもと銀行の洞窟を駆けるトロッコへ乗車した。

先頭の一つのライトだけで暗闇の洞窟を突き進む、グリップフック操縦のトロッコ。全員しがみつき突き進む中、ハーマイオニーの後ろに座る名前は、後方で朗らかに揺られているボグロッドを不審に振り返る。
地下深くまでうねり続ける線路を、いったい何番金庫なのか爆風を受けながら進んでいくと、滝のすぐそばを通過した。

「あれは何!?グリップフック!」
「……」
「グリップフック!?」

滝を見下ろして取りかけるハリーを無視して、グリップフックがトロッコのブレーキをかける。少し先にまた現れた滝が、後ろ姿を黙って見ていた名前の目に飛び込んだ。

― バシャア!!! ―
―キギギィーーーーッ … ギギ! ―

ものすごい重心に沿って、全員の体がおなじように前後する。二つ目の滝はトロッコの全員をずぶ濡れにさせた。名前が前に座るハーマイオニーの後ろ姿にはた、と止まっていると、トロッコの先頭から灯りが伸び、警音を鳴らしだした。
驚く間もなく、トロッコの座席がガタンと回転し、全員をずり降ろした。

「うわっ!!?」

支えを無くした全員の身が、悲鳴と共に暗い洞窟に落ちていく。接近する地面の寸でのところで、ハーマイオニーが呪文を叫んだ。

「"アレスト・モメント"!!」
―ビタッ!  …―

― ドサドサッ、! ―

落下の衝撃は免れ、少し浮いたところから落とされるだけで済んだ。お礼を呟きながら体勢を整えていると、やっとハーマイオニーの姿が元に戻ってしまっていることを認識した。

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