Deathly Hallows(Part 2)-4
見上げた先の、先ほどまで乗っていた無人のトロッコは、警音を鳴らし続けながらその場を後にした。ハリーがハーマイオニーの姿に驚いている間、隅に居た名前は、隣のボグロッドが不思議そうにあたりを見回しているのを目に入れていた。
「!? 元に戻ってる…!」
「"盗人落としの滝"。呪文を洗い流す。命取りです」
グリップフックの言葉に、勘弁して、とぼやくロンを遮らない程度に、名前はボグロッドを差しながら若干慌てる。
「ねぇ、洗い流されたんなら…―」
「ところでほかに出口は?」
「ない」
「お前たち ここで何をやっている!」
「…」
名前はまぁ当然かと、状況をうかがって怒鳴ったボグロッドの隣で手を引っ込めた。さっきまで呪文で朗らかに笑っていた彼とはわけが違う。
「泥棒め!! …!?お前は…」
「"インペリオ"」
「スゥーーーー……」
グリップフックを目に入れて表情を変えたボグロッドへ、ロンが何も待たず再び呪文をかけ、元通り朗らかな笑みを携えてボグロッドは黙った。静かになった空間に、どこからか遠巻きに恐ろしい咆哮が響き、ロンは"ヤバそう"と呟いた。
…――
にこやかなボグロッドと、グリップフックを先頭に、しばらく進んだ洞窟の先の金庫。ハリーのすぐ後ろ、最後尾を進む名前の耳にも、ロンが呟く声は届いた。
「すっげぇ… ウクライナ・アイアンベリーだ」
「…」
ひと際大きなその入り口を、鎖につながれた大きなドラゴンが塞いでいる。名前は恐ろしさなんかよりも、それが繋がれた鎖による傷に釘付けになり、ハリーの背後で息をのんだ。ドラゴンの中でも最大とされている彼のうろこが傷付き、こんなところに縛り付けられている。
傍に配置された木箱から、グリップフックが片手ほどの鳴り物のような物体をロンへ手渡した。
「これを」「?」
「!!」 ―ジャラ…!―
察知したドラゴンが異変に気付き、威嚇の表情を向け体を乗り出す。後退し、ハリーは名前を庇うように腕を差し出す。ドラゴンが少し手足をついただけで全身に振動が走り、鳴き声は耳に痛い。が、グリップフックがその取り出した鳴り物を振ると、声色が急激に変わった。少し口から炎を見せたものの、身を縮こまらせ今度はドラゴンが後退った。
グリップフックは勝ち誇るように笑い、それを鳴らし続けながら慎重に歩を進める。
―ガラガラガラガラ!カラカラカラ!!!―
「ギャアアァァ…! ガァァ、!」
「この音を恐れるよう教え込んだ」
「虐待だわ」
「ガァアァァァ…!!」
「っっっ……」
「?」
ドラゴンの怯える声に、名前は表情を歪めたまらなく辛い思いに襲われる。張り裂けるような胸中の心地をまるで物理的にぶつけられているような感覚が意識を襲い、額を抑えてよろめいた。ハリーは振り返り名前を支えた。
鳴り物の音も、ドラゴンの声も、痛がるように堪える。
「名前、!大丈夫?」
「聞けない、こんな この子の声……」
魔法動物と通じ合いやすいのか思いがダイレクトに伝わるのか、宿った魔法の影響か名前はハリーに掴まりながら冷汗を浮かべる。
金庫の入り口を目指す間、ドラゴンは隅に身を寄せ、すっかり声を弱々しくさせてこちらを警戒した。ハリーに支えられる名前とドラゴンを忙しく見ながら、ロンも気まずそうにその鳴り物を振るのをやめた。
「ありがとう、…さぁハリー行って、」
先に進んだボグロッド達のほうへ、頭を押さえないほうの手でハリーをむこうへ優しく押すと、心配そうにしながらもハリーは名前の元を離れた。
先頭のグリップフックがボグロッドの手の平を扉へ押し付け、入り口の鍵を解いたのを遠巻きに見届けていると、鎖の音が名前の耳に届いた。
「、」
進む通路にまだ足を踏み入れていなかった名前を、ドラゴンがそう声を荒げないまま、うかがうように顔を近づけた。名前は緊張を覚えながらも、なんとか警戒を解いてくれないかその瞳を見つめた。痛々しい傷がさらに近くで目に入り胸が痛む。
自分の全身よりもはるかに大きいその顔もまた、名前を不思議に感じている様子で見つめ返す。が、金庫へ忙しく進む彼らの足音を耳に入れると向きを変え、名前に頬を寄せるようにして通路を覗き込み声色を変える。
「ッ、!」
「、」
「早く中へ、!」
忙しくこちらを振り返った彼らに向けて名前は言い付ける。壁とドラゴンにつぶされないよう身を縮めて避けると、怒りを込めた鳴き声をひとつ上げて、金庫へ向けて炎を吐き出した。グリップフックは名前が居まいが早急に扉を閉める。
―ゴォォ、!!―
―バタン!―
閉められた扉にはすぐに、巻き付く蔦のように絡み合う施錠がかけられる。信じられないものを見る目でハーマイオニーはグリップフックを見下ろす。
「妖精は焼け死んでしまう?」
「…ッ ―」
「名前なら心配ない」
「……」
「…そうさ。暴れ柳だって名前を助けたのだから」
言い返しそうなハーマイオニーを遮るように、ハリーが口を挟む。視線を寄越されたロンも応えるように加わり、ハーマイオニーを落ち着かせた。ハーマイオニーは見逃してやると乱暴に顔を背け、二人の言う通りだと、意識を金庫へ向けた。ハリーも分霊箱へ集中すべく"ルーモス"と唱え、広く暗い金庫内を照らしてうかがった。