Deathly Hallows(Part 2)-12



「名前ーーーー!!!聞こえるーーー!!!?大量の水をこっちに――――!!!!」

ロンは上空へ泣きわめくようにハーマイオニーの手をしっかり握ったまま叫び、ハリーは積まれたガラクタを崩しながら炎を阻みながら、皆足を全力で動かし逃げ惑う。
ゴイルは消し方が分からないというように、炎を出したままの杖を振り続け、辺りに点火し続ける。
炎は蛇にも、虎にも姿を変え、部屋全体を大火で包み込んでいく。

ハリーが繰り出した水で弾いた炎の衝撃でロンが転げると、手がそこらに立てかけられた箒に、幸運にも差し掛かった。
手早く二人へパスして、三人は一気にスピードを付け炎から逃げる。炎は意思を持つように、逃げ道を上空に変えたとて三人を容赦なく追いかける。

ドラコ達は逃げ道がみるみる絞られていき、積まれたガラクタを急いでよじ登り炎を逃れる。
掴んだ椅子を選び誤ったゴイルは椅子もろとも炎に体を投げ入れ悲鳴と共に焼け消えてしまった。
絶望する残されたドラコ達もまた、迫る炎に足場を奪われ両手で早急に余る力の限り掴まって堪える。必死な様子は、遠くを飛ぶハリーの目にも留まる。ロンが逃げ道へ誘導しようと、声を上げる。

「急げ!こっちだ!!」

「…助けないと!!」
「!? 冗談だろ!?」

グル!と向きを変えたハリーに、戸惑うロンと、ハーマイオニーも続く。
火の手を逃れるドラコ達の元になんとか辿り着くが、箒に乗せようにも手が寸でのところで届かない。

「これで死んだらブッ殺す!!そんで名前にボコボコにしてもらうからな!!!」

鬼の形相で叫ぶロンもまた、救助に加担する。
なんとか二人を箒の後ろに乗せ、出口まで猛スピードで飛び進む。

先頭のハーマイオニーが炎目掛け魔法を放ち、吹き抜けさせて通り道を作ると、出口へ皆いっせいに飛び出て転げ落ちた。

「…!!!」

ハリーに特に何を伝えるでもなく、ドラコは一目散にその場を後にして走り去った。ハリーは目で追うことしかできず、今は一緒に転げ落ちた分霊箱の髪飾りに目を落とした。

「ハリー!!」

ハーマイオニーに投げ渡されたバジリスクの牙を、思い切り髪飾りに突きさす。
突如漆黒の煙を上げ、耳をつんざく不気味な悲鳴が響き渡る。ハリーが弱るようによろけ座り込むと、ロンは早急に髪飾りを蹴り飛ばし、開きっぱなしの扉の向こう、大火に包まれる必要の部屋へ放った。

猛獣をかたどっていた炎は帝王の顔に形を変え、三つに分裂させた怒りを帯びた顔で、こちらに迫った。扉が閉まるまで騒音が意識を占領したが、閉まればなんの音も残さず、静寂にその場は包まれてしまった。

場所の違う、ハリーと、ヴォルデモートの苦しむ姿は、全く同じもののように重なる。
ヴォルデモートは城を遠巻きに見下ろし、明らかに変わった様子をうかがい"わが君.."と声をかけた手下を禁断の呪文で片手間に殺した。
ナギニは足元で不安そうに、その巨体を縮ませて主人を見上げている。

「…来い、ナギニ。…お前を安全なところへ…。道中、

小僧の心の支えを奪おう」


声を低めて囁くと、ヴォルデモートはナギニと共に姿をその場からくらました。

座り込むハリー。破壊の瞬間流れた景色で知り得たことを、心配そうな二人にも伝える。

「…あのヘビだ。ヘビが最後の分霊箱だ…!」
「……」

手段を迷うハーマイオニーはふと隣のロンを見るが、ロンの表情はすでに手段を見つけているようだった。
ロンもまた、決心するように一呼吸をおいて、ハリーの目線に座り込み答えた。

「やつの心を読め ハリー。居場所が分かれば蛇も見つかる」
「……、」
「終わりにできる…!」

最後の望みというように、危険は承知というように、ロンの言葉にも重みがあった。ハリーもまたそれしかないというように、拒否はせず、奴の意識に踏み込もうと、虚無を見つめて集中した。
辛抱ならないというように、ハーマイオニーもハリーの近くに座り込んで支える。ハリーは痛みをこらえるようにしながら、意識のすべてを帝王へ向けた。


…――

名前は自分やホグワーツ生に向けられる攻撃魔法を跳ねのけながら、敵の侵入を防ぐよう立ち向かい続ける。応戦する魔法使い達や、庭先まで侵入した巨人に立てられる、騒音や衝撃のさなか、火の眩しさとともに目に飛び込んだ影にふと身を凍らせた。

戦いの渦の奥、庭の端に静かに現れた、足元に大蛇を携えた、ヴォルデモートの姿。
大きく構えられた杖がまるでスローモーションに見える。

「…―― 」

誰も帝王に見向きもしない中、名前だけが姿をとらえ絶句した。
音も届かないような遠方から、放たれた邪悪な呪文はどの行き交う魔法使いにも誤って当たることなく、目掛けた名前一直線に放たれ、体の中心に命中し、名前の身を吹き飛ばした。

「〜〜〜〜〜 ぐ…!!」

弧を描いて地面に体を打ちつけると、名前は体中を這いまわる苦痛に脂汗を滲ませた。立てる膝は両方、だらしなくズリ、と地面を這うだけ。凍てつきだす指先。
佇むヴォルデモートは杖を憎たらしそうに見下ろし、名前に構いもせずその場を後にした。息絶えさせる筈が杖が従わず、名前の命を奪うまでに及ばなかった。だが、もがき苦しみ死にゆくのもいいと、片手間に済ませる用事ほどにしか思わず、ヴォルデモートはその庭の目先の、船着き場へ足を向ける。


「ぅ…! ぅぅ……―…」

呪文通りに放たれなかった魔法とは言え、"アバダ・ケダブラ"でも"クルーシオ"でもないその魔力は、名前の体中を這い回った。力を籠める余地がないほど痛みと苦しみがうごめき、名前の視界がしだいに霞んでいく。吸う息が十分に運ばれず、息が通るのも痛く、顔を歪めるのも激痛に感じる。杖が従っていれば一撃で落としていた命だったが、この呪いも十分、じわじわと名前を死の淵まで引きずり込んでいるようだった。
絶望、悲しみ、痛み、苦しみ。
いっそ今すぐ殺してほしい。
負の感情だけが、這って苦しむ名前の意識を占拠した。

ふと混乱の中、装いの古びた魔法使いが立ち止まった。

「…!! お嬢ちゃんじゃないか…!」
「……、……」
「こんなところで何してるんだ…!?」

戸惑って声を掛けるのは敵側に加担する魔法使いの一人の、ノクターン横丁の料理屋の店主だった。顔なじみの横たわる姿に、男は混乱していた。名前が隠していた通り、男は名前がホグワーツ生であったことなど全く知らず、敵対している立場なのか、同じ側の仲間かも分かっていない。
苦しみに捕らわれた名前の耳には届かない。遠のく意識の中、この老人も、もはや自分も、どこに居るのだか理解していない。

命からがら、体中を傷つけ全身ずぶ濡れの状態で、デスイーターの男も這うようにやって来た。この名前には杖を奪い返され攻撃を防がれたり大波に飲みこまれ怪我をさせられたりと、手を折ってわめかせる以来できていなかった屈辱を、今すぐ晴らしたかった。
戸惑う店主の背中に、乱暴に呼びかけた。

「じいさん、トドメを刺せ。俺はそいつに恨みがある…、代わりに殺してくれ」
「……! 俺は常連は傷付けん主義だ」
「何?…まだ息があるんだよ。早くしろ」
「やりたきゃ手負いのお前さんで意地でもやれ」
「……」
「……」

息絶える獣の弱々しいうめき声のような声しか上げられず、ダラ…とうごめいて苦しみに飲みこまれていく名前。一度名前から目を背けた店主を、ワケが分からないというようにデスイーターは一目見て、やけくそのように一歩踏み出した。

「!!? ぐァ 」
―バシュ!!!―

店主は即座に振り返りデスイーターに魔法を繰り出し、その身を粉砕させた。思わず仲間内を手にかけたが店主はもう一度名前を振り向いて、その表情を曇らせた。

「おい!何してる!?今仲間を殺したか!?」
「……手が滑った」
「、侵入するぞ」

荒々しく声を掛けたデスイーターに続くよう、店主はその場を後にする。うめき声すら上げなくなった名前は地面に突っ伏し、息をすることをやめ、体のどこも動かさなくなってしまっていた。

激戦の騒音が響き渡り続ける中、名前の命の灯は消えた。

prev | list | next
top