Deathly Hallows(Part 2)-13



ハリーが捉えたヴォルデモートの心の中。意識に飛び込む、数本のオールに、波の音と、ロープの締まる音とともに鳴る金属。船着き場の光景に、ハリーは更に集中した。

激戦下の庭先、邪悪な緑色の魔法の波に吹き飛ばされる寸前の、名前の絶望に満ちた表情から、足元の大蛇を見下ろす視界。

"恐れながら…戦いを中止されたほうが賢明では?"

"小僧を探す必要はない…妖精を葬った俺様のもとに向こうからやってくる!"

暗い屋内、ルシウス・マルフォイに迫る帝王。

"セブルスを捜せ。連れてこい"

確実にヴォルデモートは焦っている。その表情に余裕はない。ハリーは心を読むのをやめ、息をあげながら目を開くと、ロンとハーマイオニーをうつした。目から涙が一筋伝う。

「…… 名前がやられた」
「…!?」 「ッ……」

「場所も分かった……」

受け入れがたい事実に、三人はしばらく押し黙る。
真実かを道中に確かめられるかも定かでないが、三人はとにかく急いで探し当てた場所へ急ぐ。苦しんだりする姿まではとらえていない。少ない希望を握りしめ、ハリーは懸命に駆ける。

城の崩壊も、炎も、敵襲も止まらない。攻撃魔法は縦横無尽に飛び交い、巨人は武器を振り回し暴れ続ける。
生徒の悲鳴、意識をとばし横たわる魔法使い達、城の変わり果てた姿。
向けられる攻撃をすべてかわし、跳ね返しながら、三人は庭先に差し掛かった。


…――

名前はまるでエジプト土産の箱に閉じ込められたときのような、夢見心地の穏やかな空間に佇んでいた。あんなに体中をうごめいた苦痛も、気持ち悪さも、もうどこにも残っておらず、傷の痛みも、泥や汗の鬱陶しさも消え失せ、とにかく気持ちが穏やかだった。

「……」

視線の先、白銀の美しい霧の向こうにとらえたのは、夜空に幻想的に浮かぶたくさんのロウソクと、広間の前方。
大切な思い出の欠片を、見間違えるわけがない。黒いとんがり帽子とぞろぞろと集まるまだ新しいローブをまとったあの子供たちは、自分が一年生のときの姿だった。

名前は過去の自分たちを後方から眺めるその不思議な感覚のまま、ゆっくりと広間に足を踏み入れた。皆前方の組み分け帽子を見ているというのに、一人の好奇心旺盛な女の子は、目を輝かせて上空のロウソクと星空に釘付けだった。
星空を満喫するまだ幼い自分の横顔。その隣には皆より頭ひとつ分背の高い、よく似た後ろ姿の赤毛が二人、並んでいた。その後ろ姿に、名前はさらに思い出を尊んだ。

「あの双子?」
「グリフィンドールの。名前も入学式で見たでしょ」
「…」
「まさか分からない?ウィーズリーの双子が?」
「……天井見てたから」


見上げる名前のほうを見る、隣の赤毛のその横顔は、まだ一年生の頃のフレッド。何度も前方を見ては、名前を振り向き、口をぱくぱくさせては、押し黙りを、繰り返している。

僕はフレッド・ウィーズリー。君の名前は?
君はどの寮になりたい?
えらく天井に夢中だね。君の生まれはどこ?

何か話したくて、話せないのだろう、幼いフレッドは、名前を見ては口を噤んだり、頭を掻いたりしていて、後方から眺める名前がくすぐったくなるほど可愛く、愛おしかった。
"早く名前の元気が、奴が一目で堕ちた、あの日の君のような元気に戻るといいな"
ジョージの言葉と結びついてさらに名前の微笑む瞳は潤んだ。向けられる勿体ないほどの愛情が、あまりに暖かく、嬉しく、幸せだった。


「名前」


幼い自分たちの姿を眺めていた名前に、最愛の人の呼ぶ声が届いた。まるで眠っているのを起こしてくれているような、愛ややさしさの満ちた、フレッドの声。そばで聞こえた気がしたが、名前は広間の扉を振り返った。


「――――……」

"キャアァー!"
"――ガシャン!! ガラガラ…!"

ぱち。
フレッドの声に振り向いた筈の名前は、まばたきとともに映す景色を変えたかのようだった。力なく目を開けた今でも耳に残る、城の別の場所で既に命を落としていた、フレッドの呼び声。夢から覚めるように意識が戻ると同時、戦いの混乱が再び耳に届き、張り付けていた頬や口元に地面の感触が戻った。
どっと重い体、まとわりつく髪に、ズキズキと痛む傷。力なく体を動かすと、庭の隅を駆けるハリー達三人の姿をとらえた。暴れる巨人族が一体、容赦なく武器を振り下ろす。

「…っ… っ (ハリー…)」

激痛の余波の漂う四肢。名前は堪えて、震える唇を噛み締める。
行く手を阻む大クモの群れ。通路までどうにか逃げ切った三人を追う巨人族。名前は地面に体を突っ伏したまま、傷や汚れをまとった指先を、ガタガタ震わせながら構えた。

「…ッーーーー」

構えた手や、自分の体から、何やら煌めいて漂う光を視界の隅に捉えた。名前にはそれが、何だか分かる気がした。
再び霞みだす視界。そんなことに構うことなく、名前は、走る三人に集中する。
傷がどんなに深く痛もうと、体に力が入らなくとも、
魔法が去りかけていようと。

「うぅ゛っ…!!!」

――   パチン!  ――

”ズザザ…” "ザザァァ…ン!!"
「!!」

力を振り絞り、乗り出すように鳴らした指。魔法は十分すぎるほど答え、繰り出した水の塊で巨人族を大きく転倒させ、クモを波で彼らより遠くへ追いやった。巨人は大声を上げ苦しみ、クモも小さくなって後退る。

塊の打ちつけるしぶきは、三人のもとにも届く。名前の魔法だと分かったハーマイオニーは、走る足を止めずに顔を歪めて涙を流す。

「名前!!きっと無事なんだろ!!!」
「…ッ!! …ッ!!」
「その調子だ!!君がハリーを守ってくれなきゃ!!!」

足を動かし続け、懸命に叫ぶ隣のロンを見やる。姿こそ捉えられない名前に向けて、ロンは呼び掛ける。
ハリーにも、名前の助けだとは容易に分かる。唇を噛み締め、務めを全うせんと、守ってくれた名前のためにもと、さらに力を振り絞った。

彼らは波によって守られて、はぐれずに庭を出た。名前は乗り出した勢いそのままに、再びドサリと地面に突っ伏した。その名前の身に沿うように、フワ、と光は漂い、煙のように名前から舞い上がってキラキラと消え去っていく。
"リーバー"の魔法が去るように、名前もゆっくりと再び、命を手離した。

prev | list | next
top