Deathly Hallows(Part 2)-14
名前が大波を起こした橋までやって来た三人。前方から襲い掛かる無数のディメンターを、突如広範囲の魔法がすべて撃退した。
信じられないほど強力なそれはアバーフォースによるもので、彼もまた戦いに挑み立ち向かっていた。そばのホグワーツ生や騎士団のメンバーの盾になるように立ち、ハリー達を援護した。
橋を抜け、三人はハリーが心に侵入して読み取った船着き場に、ようやくたどり着いた。戦いの騒音も遠巻きになるこの場所に、確かにヴォルデモートと、スネイプの姿があった。
早急に足音を潜め身をかがめる。察知しないまま、ヴォルデモートは、杖が言うことを聞かないことをスネイプにこぼした。窓の欠けた隙間から覗き込むハリーの目は、地を這うナギニの姿もとらえた。
「それは最強の杖です、オリバンダーが申しました。今夜小僧とまみえる時には、ご期待に添うはず」
「……」
「その杖の主は、貴方様だけです」
安堵させるような笑みを気持ち浮かべるスネイプ。ヴォルデモートのあまりに真っすぐな視線は、縋るようにも、スネイプを見定めるようにも見えた。三人は息を潜めたまま、二人の会話に集中した。
視線を外しゆったり歩くヴォルデモートに、スネイプの身は少し固まる。
「杖は本当に俺様に仕えているか?お前は賢い男ゆえ知っておろう」
「………」
「この杖の本当の持ち主は誰だ?」
わが君、貴方様です。そのスネイプの答えを、まるでヴォルデモートは特段待っていない様子だった。スネイプの身に恐怖が走り抜ける。
「ニワトコの杖が俺様にまともに仕えぬのは、真の主ではないからだ。この杖は前の主を殺した魔法使いに帰属する」
「…」
「ダンブルドアを殺したのはお前だ。お前がいる限り……杖は俺様のものにならぬ」
セブルス、お前は忠実なしもべだった。
「… わが君――」
―ザシュ!!―
出かけたスネイプの声ごと裂くようにヴォルデモートは片手で遮ると、スネイプは首元にみるみる血を沁みさせてバタリと倒れた。
倒れたほうの窓にはハリー達が身を潜めており、その音に三人身を縮めさせた。
「ナギニ。 殺せ」
―シャァ!!―
"バタン!!"
"ガタン ガタン!!!!"
襲い掛かる大蛇の衝撃にスネイプは襲われ、窓や壁はその振動に揺れ続ける。ハリー達は手も足も出せないまま、しばらくしてヴォルデモートとナギニが姿くらましをしたのを見届けてやっと、屋内へ駆けつけた。
窓一面に血を付け、呼吸を浅くして倒れ込むスネイプ。ハリーは成す術も分からないまま、彼の首元の傷を抑えた。視線をやったスネイプの瞳から、一筋涙がこぼれた。
「これ を 、 取れ」
「……」
「これを…! 頼む…」
弱り切った声に動揺するハリー。すぐに気を取り直し後方のハーマイオニーに入れ物を要求する。そんなハリーも、後方の二人も、残酷な状況にとてもまともでは居られない。憂いの篩へ投げ込むよう言い付け、スネイプはもう一つ、自分を見るようハリーに頼んだ。
リリーと同じ瞳を見つめたスネイプは、引き取る息を大きくひとつついて、その命を落としていった。
「……、…、 ぐ…―!!」
突如、つんざく音が皆の脳内を占拠した。ふらつくハリー。ハーマイオニーは両耳を抑えて、その気味悪さを耐えた。
―お前たちは 勇敢に戦った。だが無駄だ―
その邪悪な声は、デスイーター達敵陣にも、届いており、撤退を命じていた。
―こんなことは望まぬ…魔法族の血が流されるのは大きな損失だ。…我が勢力を一時撤退させよう…―
―その間に死者を、尊厳をもって弔うがいい―
まるで侮辱ともいえるその囁きは、やがてハリーに向けてのみ放たれた。立ち向かわずに友としもべを犠牲にしたと、ハリーの精神を追い込んだ。嫌でも思い返される、魔法を受けてしまう直前の、名前の絶望の表情。
―… 禁じられた森に来い。―
「…」
― 自分の運命と向き合え ―
来なければ全員を殺すと言い放ち、ハリーに選択の余地を与えなかった。
…――
敵が去った城の庭。皆、動ける者で救助にあたる中、数人の生徒に囲まれていた、力尽きて横たわる名前のもとにジョージが力ない足取りでやって来た。
座り込み抱きかかえると向けられる、傷の血や泥に汚れた眠るような親友の顔。首元をサラと流れて襟元から顔を出す、贈り物のネックレス。
「フレッドのそばに行こうな、名前…」
小さく、小さく、やっとの思いでそう言うと、ジョージは名前に頬を寄せて嗚咽を堪えずに泣いた。
自分の分身のような、かけがえのないフレッドの死の直後、名前のその姿はジョージにはとても耐えられなかった。周囲の誰の目も気に留めず、ジョージは冷たくなりだした名前を力いっぱい抱きしめて、しばらく涙を流した。
ハリーはまだこの手のスネイプの涙で、真実を知る務めが残っている。
篩にかけるよりも先に、三人は敵の去った城の中へ戻った。庭は見違えて荒れ狂い、火をところどころに残している。生徒は皆中に居るようで、そこには戦いの跡と、瓦礫しか転がっていなかった。
広間の扉を開けて、ハリーのみならず三人は絶句した。
手当てしあう生徒や教員の傷はどれも痛々しく、亡骸であろう顔を覆われた担架が運ばれるのは一つや二つではない。死者に絶望し項垂れる姿も広間のそこら中にある。
広間の奥にはウィーズリー家の姿。ハリーを見つめる、佇むジニーの表情に色はない。
モリーが抱きしめる亡骸は、青白くなったフレッド。その隣、髪をなでていたフラーが立ち上がると見えたのは、名前の眠る顔だった。
ずっと嗚咽をあげ泣き続けていたジョージが、ロンを目に入れた瞬間抱きしめた。
ハリーは息の仕方を忘れたように、絶望のただ一色に染まっていった。
奴の言った、しもべを犠牲にしたというのも、踏み入って見えた彼女の姿も、嘘だと思いたかった。庭を抜けるときに助けてくれたのは確かに名前の魔法だったから、希望を捨てなかった。
なのにフレッドの隣に横たわる名前は、どう見ても永久の眠りについていて、もう目を開けも、言葉を発しも、微笑みかけもしない。
苦しむように息を吐いて視線を逸らした先にも、ルーピンとトンクスが横たわり、どちらか息のあったほうが最期まで握っていたのであろう、手を寄せあったまま亡くなっていた。
しばらくぼうと見て、ハリーは校長室に向かうべく、半ば無理やりに足を動かし、広間を出た。
篩でスネイプの涙から伝えられた真実はあまりに多岐にわたった。
幼い頃から母へ向けられていたスネイプの深い愛。学校生活で抱いたジェームズへの感情。
赤ん坊の頃、呪いを受けた夜の一件の全貌。ダンブルドアとスネイプの言葉の数々。凍った湖に現れた、雌鹿の守護霊の正体。
ヴォルデモートの破壊された魂の欠片の行先。
ずっと怪しんでいた彼の、すべての真相がそこにはあった。それとともに、
ハリーはこれから自分が、帝王の手によって殺されなくてはいけないことを、篩によって知らされた。