Deathly Hallows(Part 2)-15



校長室を出て階段を降りゆく先に、ロンとハーマイオニーがハリーを待っていたかのうように居合わせ、寄り添い座り込んでいた。足音に振り返りハリーを見るが、ハリーは視線を合わせず足も止めなかった。

「どこに居たの?」
「森へは?」
「今から行く」
「正気か?よせ…!」

制止するロン。戦いの真相を知る前であれば、この友二人にもいつものように甘えられたし、力になってくれただろう。ハリーは表情を歪め唇を噛んだ。ハリーの異変には勿論、ハーマイオニーが即座に気付いた。
止めるロンの腕を引いて、彼より一歩前にハリーへ歩み寄る。

「どうしたのハリー。…何を知ったの?」

振り返ったハリーの、吸い込む息は震えていた。

「なぜ分霊箱の声が僕に聞こえるのか、…薄々気付いてた」
「…… ―――… 」
「君もだろう?」

ハーマイオニーは顔を歪めて涙を流し訴えるが、ハリーはすぐに首を振る。

「一緒に行く…!」
「ヘビを殺して。…そうすればやつ独りになる」
「〜〜〜ッ……」

たまらなくなったハーマイオニーはハリーを思い切り抱きしめる。決戦の森へは付いていけない。帝王の手に消されるべくハリーは、一人で行かなければならない。
ハーマイオニーを抱きしめ、ロンを見やる。ロンもまた固くした表情で何も言えずにいたが、まさかと過るようにさらに血の気の引く思いだった。
ハーマイオニーを離しハリーは森へ足を進める。二人はもう何も言わず、その背中を見送った。

…――

広間さえ出ればもうどこにも、誰の姿もなかった。静寂に自分の足音と息だけが響く中を、ハリーは進む。
しだいに息は上がり、近付く恐怖に震えだす。森をしばらく進むとふと立ち止まり、周囲を見渡してポケットからスニッチを取り出した。

" 私は 終わるときに開く "

スニッチに浮かび上がる、この彫刻の意味が分からなかったのは、まだ最期でなかったからだろう。

「…… 覚悟はできた」

意を決する、今がそのときだとしか思えないハリーは、スニッチに口付けた。残酷にもハリーの考え通り、今がその"終わるとき"であると答えるように、スニッチはキキ、と動作して中から浮かぶ漆黒の小さな石を出現させた。
石はゆっくりと浮かび上がる。まるで水中のような透けて少し見えるその中央には、死の秘宝の文様がある。

「…"蘇りの石"だ……」

ハリーがやった手の平でゆっくり握りしめるまで、石はふわふわ漂うままだった。握った石に集中するようにしばらく目を閉じ、顔を上げると、ハリーは息をのんだ。
両親、シリウス、命を落とした愛おしき面々が、ハリーを見守るようにして佇んでいた。

「…!!」

向けられるリリーの手を握り返そうと、嬉々として駆け寄るもその手はすり抜け、触れられない。こんなに鮮明に姿が見えても、叶わなかった。寂しそうなハリーに、微笑むリリー。

「…あなたは勇敢だったわ」
「……なぜ皆がここにいるの?」
「ずっといたわ」

優しく言い聞かせるような母の声。ハリーは涙をのむように堪えて頷き、シリウスのほうを振り向いた。

「苦しいものなの?死ぬのは…」
「眠りに落ちるより早い」

「頑張ったな 息子よ」
「ごめんなさい。僕のために皆を死なせて…。リーマスも息子が…」
「父と母が何に命を懸けたか、いつか息子も分かるさ」

皆を向いてハリーは言葉を交わす。その皆の誰もが、同じような穏やかな表情で、優しい眼差しを送っていた。
それは数歩先に佇む、名前の表情も同じだった。

「……、……、」
「…ハリー」

何と言葉を発せばいいのか分からない様子のハリーより先に、名前が口を開いた。広間で見た眠る彼女の表情とはまるで違う、いつも向けてくれていた、当時のままの優しい微笑みだった。

「ハリー、多分もう、…"リーバー"の魔法はもう、私から去ってしまったの」
「……」
「だけどまだあなたのために戦いたい。まだ信じてくれる?勝つまで、私を」

「……勿論信じてる。心から」

はら、とハリーの頬を涙が一筋流れた。心から安堵する笑みを返す名前の瞳も、潤んでいる。二人ともまるで、触れられなくても、手を強く握り合っているような感覚だった。

もう一度両親を振り返り、"居てくれる?"とハリーが聞けば、ジェームズは言い聞かせるように頷いて応えた。

「最後まで」

帝王に死した皆の姿は見えなくとも、ハリーが孤独を感じる必要はない。"皆ここにいる"と、シリウスはハリーの胸を指した。数年前と同じように。安心させるようなシリウスをハリーも見つめ返し、その瞳はリリーへ向けられた。

「そばにいて」
「… ええ。ずっと」

ハリーの胸に勇気と安心が込められる。
蘇りの石は漂うのをやめ、開いたハリーの手のひらを、ただの石ころと化して転がり、地面にカサ、と落ちてしまった。

ヴォルデモートと、ベラトリックスら手下が集う森の一角に、ハリーは勇敢に足を踏み入れ姿を現した。

「ハリー…!? やめろ!!なんで来た!!」
「黙れ!」

絶望に表情を歪めるハグリッドは、縛られ身動きが取れないながら悲痛に叫ぶ。そのすぐ隣にはナギニの姿もあり、ゆっくりと主に近付きながらハリーを両眼で捉えている。
ヴォルデモートはハリーに向き直った。

「ハリー・ポッター…。"生き残った男の子"…死にに来たか」
「……」

覚悟の固まったハリーは、杖も構えずゆっくり目を閉じて、そのときを待った。

― アバダ・ケダブラ ―


呪文を叫び唱えるその邪悪な声と共に、ハリー目掛け真っすぐに緑の閃光は放たれた。少しも逃げなかったハリーはもろに体の中心にそれを受け、衝撃に吹き飛ぶとそのまま、意識を手離した。

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