Deathly Hallows(Part 2)-16



ハリーが目覚めたのは真っ白な世界。どこだか分からず辺りを見回し、数歩先の真っ白なベンチの下で、小さくなって血濡れて細い呼吸を繰り返すヴォルデモートのような生き物を目にして叫びそうなほど驚いたが、おろされた声の主にさらに驚いた。

「助けられぬ。ハリー…君は素晴らしい」

落ち着いた声で話す、生前と姿もそう変わらないダンブルドア。思わず目を見張りながらハリーは、ああ、自分は命を落としたのだと、なんとなく考えが行きつきすぐに不思議と落ち着いてしまった。"歩こう"と言われるがまま、彼に並びその白一色の眩しい空間を二人でゆったりと歩いた。

「先生あれは?」
「わしらには救えぬ。滅ぶえべきヴォルデモートの一部じゃ」
「…ここは?」
「わしが聞こうと思った。ここはどこじゃ?」

ハリーは少し考えて見回すと、もっときれいで列車だってないが、キングズ・クロス駅に似てると答えた。ほう、とでも言うようにパッと、ダンブルドアはハリーを一目見た。

「キングズ・クロスか…では名前との密会はあのあたりで行われたと」
「、」

今度はハリーがバッと、ダンブルドアを一目見た。特に構わずダンブルドアは同じ調子で、ここは君の晴れ舞台だと伝え、話し続けた。

「君とヴォルデモートには運命以上の絆があった。ゴドリックの谷でのあの夜以来じゃ」
「やはりやつの一部が、僕の中に生きてる…?」
「だが、ヴォルデモート自身に破壊され消えた。君は…やつが期せずして作った分霊箱だった」

この空間のせいなのか、なんだか物語を聞いているような不思議な心地のまま、ハリーはダンブルドアと歩き、また数歩先に現れたベンチに、ダンブルドアにならって腰掛けた。熱くもない、寒くもない、ただ優しい風が、二人の間を通り抜けた。

「……僕は帰るべき?」
「君次第じゃ」
「選べると?」
「ああ。ここはキングズ・クロス駅だろう?妖精と密会もできただろう。また君が望むならば、…汽車にも乗れよう」
「汽車はどこへ?」
「ハハ… 先へじゃ」

笑って、ダンブルドアは浮かないハリーを置いてベンチを立った。数歩離れて佇むダンブルドア。ハリーは少し遅れて、意を決すように立ち上がり向き直った。

「やつは最強の杖を」「…さよう」
「ヘビも生きてる」「さよう」
「…倒す手段がない」
「主人のように妖精はひるんではおらんようじゃよ、ハリー?」
「…、……」
「……名前はよく言葉の通りに、魔法を使う魔女じゃった」
「………」

黙ってしまったハリーに、ダンブルドアは微笑みかけて、再び口を開く。

「"ホグワーツでは、助けは求める物に与えられる"。わしは言葉を操るのが得意でのう…。わしの卓見では"言葉"とは、尽きることのない魔法の源じゃ」

「ハリーを、?じゃあ簡単ね。いつだって信じてる」


信じてる。心から 「私もよ」


「まだあなたのために戦いたい。まだ信じてくれる?勝つまで、私を」


「……」

傷つける力も、癒す力も持つ、魔法の源である言葉。ハリーはダンブルドアの言うことをかみ砕くうちに、自然と名前を思い返した。彼女が話す通りに自分を強く信じてくれた分、彼女の魔法は素晴らしく、いつだって自分を助ける強力な力になってくれたのだろう。

「今わしは さきのセリフを修正するとしよう。"ホグワーツでは、助けは【ふさわしき者】に与えられる"。…」
「……」
「哀れむべきは死者より生きている者じゃ。とりわけ、愛なくして生きている者じゃ」

呼び止めてまで、母とスネイプの守護霊が同じ牝鹿であるのを奇妙じゃないかとたずねるハリー。ダンブルドアは優しく微笑んだまま、考えてみれば何も奇妙なことはないと、また頬を緩めた。

「ひとまず別れじゃ」
「先生! …、…これは現実?頭の中の出来事?」
「もちろん君の頭の中の出来事だが、……、現実でないとは限らぬ」

ダンブルドアは少しだけ、先ほど話した"密会"の場所をチラと見やって、また微笑むと歩き出して光にくらんでしまった。

…――

分霊箱であるハリーをその手で滅したヴォルデモートもまた、意識を失っており、その暗い森で目を覚ました。手を貸すベラトリックスを不要だと突き飛ばし、向こうで横たわるハリーを見やる。
ナルシッサは輪を離れ足早にハリーのもとへ寄り、様子をうかがうように屈んだ。

「小僧は?…死んだか!?」

ベラトリックスの問い掛けに振り向くナルシッサ。ハリーをしばらくうかがうとゆっくり立ち上がった。捕らわれたハグリッドは震えて、彼女の答えを待つ。


「死んだ」

仲間たちを振り返り一言応えるナルシッサ。彼女がハリーに小さく、ドラコの安否を問い掛けた声も、頷くハリーの様子も、少しも帝王や、敵陣の目には届いていなかった。

…――

真っ暗な夜を過ぎれば、霧の中で城の戦いの跡はまた表情を変えた。まだ額の傷の癒えないネビルは、瓦礫から拾い上げた組み分け帽子の塵をはたいてやった。見間違いか何やら中が煌めいたのを、不思議そうにのぞき込んでいた。その視線はすぐに、橋の向こうの異変を感じ取りそちらへ移される。
ヴォルデモートを先頭に再び姿を現した敵の軍勢。拘束されたハグリッドは縛られたその腕で、目を閉じて動かないハリーを抱え絶望の表情を浮かべている。
ネビルに続き、広間から少しずつ、城の皆も慌てて駆け出た。

「……ハグリッドが抱えているのは…!?ねぇ、誰なの!?」

アーサーが肩を支える、ジニーの声は震えている。容赦なく、ヴォルデモートは、両手を広げ声高らかに叫んだ。

「ハリー・ポッターは 死んだ!」

悲痛なジニーの声が、城にこだまする。アーサーがその身を止めなければ、帝王に掴みかかる勢いで走ってしまうところだった。
嘲笑う敵陣。城の者は皆、絶望に身動きが取れなくなった。

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