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本当は忍びになれればいいのだが、知識はあっても経験が追い付かないのを、桜は自分自身が一番よく知っている。
知識だけは、桜がこの『落第忍者』が大好きであることもあり、マンガに描かれていたことはおろか、自分なりに忍者についてを調べてみたので、それなりにあるとは思っているが、さすがに実践となると難しかったので、やはり忍びは無理だとしか思えない。
だから、これも『落第忍者』に感化されて始めた小太刀術で役に立ちたかった。

「どうしてもっていうなら、忍術を体得すれば、置いてあげないこともない」
いまもそれなりに動けるが、それでは足りないという。
雑渡たちの仕事は、戦だけではないから、当然といえば当然のことだ。
しかし、いまから忍術を学ぶのは、なかなか骨だと知っている。
それに教わるのなら、このタソガレドキ忍軍の誰かにだろうが、それだと逆に迷惑がかかることになってしまうので、桜としては気が進まなかった。

「忍術学園って、知ってる?」
不意に放たれた雑渡の言葉に、桜は思わず目を見開きっぱなしにしてしまうところだったが、ゆっくりとまぶたを下ろして瞬きをし、それから改めて問うてみる。
「どういったところなんでしょう?」
知ってるなんて言えないので、もちろん桜は知らないふりで聞いてみる。
少し考えれば、わかりそうな学園の名前ではあるものの、下手は打てなかった。
「名前の通りだよ。忍術を教える学校だ。そこでなら、いまからでも忍術を学ぶことができるが、行ってみるかい?」
説明ついでに雑渡がさらりと聞くから、桜はどう返事をしたらいいかわからない。
タソガレドキと忍術学園は元々、仲よくはない筈なのだ。
敵対しているといっても、過言ではない。
諸事情により、仲よくしているようにも見えるが、果たしてそんなことが可能なのだろうか。
一応、桜はタソガレドキにいる身なのだし、そんな桜が忍術学園に入れるものなのか、それが知りたかった。

簡単にうなずくのもどうかと思い、桜は疑問点を探して聞いてみることにした。
「その忍術学園というところは、誰でも入れるんでしょうか? お金がかかったりしますか?」
桜はここに厄介になってはいるが、手にしている金は一銭もないので、入学金すらない。
「金はかかるが、心配しなくていい。それと、忍術学園には誰でも入れると聞いてる」
あっさり言われると、なぜ雑渡がそんなことを知っているのかと思わなくもなかったが、とにかく桜は後者よりも前者が気になっていた。



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