09



そう決めて雑渡が稽古場に移動すると言うので、桜も一緒に行くことになった。

小太刀は、桜が持っていたものを使っていいと雑渡が言うので、部屋まで取りに戻った。
本当は実戦以外で真剣を使うのは嫌なのだが、久しぶりだったから少し慣れておきたかったし、いい機会かもしれなかった。
何となく予想はついていたが、相手をしてくれるのは尊奈門だったようで、手には苦無を持ち、準備万端のようだった。
「準備はいいかい」
尊奈門の前に立てば、傍にいた雑渡が確認してくれるから、桜は一つ深呼吸をして、自分を落ち着ける。
桜がうなずけば、それを合図に始まることとなった。

充分に場所を取り、鞘をするりと抜くと腰に差し戻し、様子を窺う。
相手は忍者を生業にしているのだから手強いだろうし、桜も油断はできなかった。
尊奈門の足がスッと動くのを確認したと同時に、その姿もかき消え、行方を追うことが桜にはできない。
気配も消しているので完全に一瞬、見失ってしまったが、放たれる僅かな殺気にいち早く反応し、小刀を構え直した。
ガキィンッ、と嫌な音を立てながら止めた苦無を押し返しながら、桜は間を取ろうとするが、逆に間合いを詰められ、猛攻撃を受ける。
だが、それは難なく桜の小刀で全て受け止められ、かすり傷一つつけられるまでには至らなかったけれど、防戦一方ではどうにもならないのはわかっていた。
苦無のほうが小刀よりリーチが短いとはわかっているが、それだけでは有利に運べない。
桜は先ほど腰に差した鞘を左手でグッとつかむと、尊奈門の不意を突いて顔に投げつけ、その隙に間合いを取ると、すぐに床を蹴って、今度はこちらから切り掛かる。
その攻撃を受け止めるために出された苦無を左手で大きく弾くと、尊奈門の胸の前にぴたりと小刀を突き付けた。
ほんの少しでも動いたら、切っ先が皮膚に突き刺さるようだったからか、尊奈門の喉が鳴るのが見える。
小刀をくるっとまわし、柄尻でトンッと叩けば、尊奈門が思い出したように降参を示した。

小刀をしまって雑渡のところに行けば、ふーん、と第一声にそうつぶやかれた。
「思ってた以上にやるね。まだまだ粗いけど」
雑渡には勝てると思っていなかったから、そう言われても腹は立たない。
けれど、それではやはり、ここで雑渡たちのフォローに入るのは無理かと不安になる。
できれば、必要とされてここにいたかったから、飯炊きもいいけれど、この腕を生かせればいいと思っていた。



[*前へ] [次へ#]

9/120ページ


ALICE+