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「……まさか、雑渡さんがお金に都合つけてくれるってことですか……?」
まさかと思って聞けば、そうだと雑渡がうなずくものだから、桜は慌ててしまった。
どう考えても、桜を忍術学園に入れるために、わざわざ入学金を支払ってくれる理由がわからないからだ。
何か見返りがあるとも思えず、桜が頭を捻って考え込んでいれば、その疑問がわかったのかは知らないが、いいタイミングで雑渡の口が開かれる。
「……それは口実で、本音は、そろそろうちの殿が動きそうなんで、別の場所に隠れてたほうがいいからだよ」
殿と聞いて、覚えている顔がふと浮かんだけれど、つまりこれは厄介払いなのだとわかると、途端に悲しくなった。
タソガレドキ忍軍を雇っているのは黄昏甚兵衛なのだし、さすがにいつまでも桜のことを隠し通せるわけがなかった。

考えてみれば、外に出ないほうがいいと言っていたのも、それが原因だったのではないかと思えた。
なぜ桜のことを内緒にしていたのかは知らないが、それでも隠していたのなら、外に出ることで見つかってしまう危険を避けたのではないかと考えられる。
このタソガレドキ忍軍の住まいでは、黄昏甚兵衛には会うこともなかったので、中を歩きまわる分には問題はないのかもしれない。
けれど、外に出たら会ってしまうのかもしれないし、それならここから出ないようにと言われる意味もよくわかった。
生活の保証はしてくれるが、ここにはいないでくれという意味だったら、何て寂しいことかと思えたけれど、世話になっている身としては、そんなことも言えない。
せめて大層な名目をつけてもらっただけ、ありがたいと思わなくてはならない気がした。



結局、桜は忍術学園に行かせてもらうことにした。
雑渡の言い方はまるで桜のためというようでもあったし、行かなくてもいいという選択肢もできるようでもあったが、桜が留まるのは厄介らしかったので、追い出される前に自分から出て行くことを決めた。
入学手続きは簡単に済むらしく、そう決めてから忍術学園に出発するのは、あっという間のことだった。
「長い休みには、帰って来るといいよ」
出がけに雑渡がそう言ってくれたけれど、途中まで尊奈門に送ってもらった桜は、とてもじゃないが、一人ではタソガレドキ城にさえ戻れそうにもなかった。
故意か、それとも親切かは知らないが、尊奈門が道らしい道を通らず、桜を抱き上げたまま木の上や茂みを通るものだから、道を覚えることができなかったため、帰れる自信が全くない。



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