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授業開始は翌日からで、桜は忍たまの友と筆記用具を手にして、教えてもらった三年生の教室に向かった。
いろはのどのクラスになるのかと思ったが、やはりは組だったことに、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからなかった。
しかし、教室に入るとそんなこともすっかり吹き飛び、知った顔を見つけてそわそわしたり、授業内容がとても興味深いからわくわくしたりと、桜は落ち着かない。
筆で文字を書くのは、幼いときに書道を習っていたから抵抗はなかったが、どれも新鮮に思えて、それすらも楽しくて仕方がなかった。

「……何で、わざわざ忍たまのクラスに入って来たんだ?」
授業が終わると、そう言って桜が隣の席になった浦風が話しかけて来た。
くの一教室じゃないのか、とさらに聞く浦風に、桜は首を傾げてみせる。
自己紹介がまだだったから、それを促す意味を込めたつもりだった。
「浦風藤内だ。……それで?」
と、浦風は名乗りながらも、自分の質問は忘れていない。
まあ、その辺は隠す必要もなかったので、桜が手短に説明すれば、いつの間にか加わっていた三反田が眉尻を下げて、ふわ〜、とつぶやいた。
「ずいぶん、厳しいお父さんなんだね?」
続けてそう聞かれ、桜はうなずきながらも突然の登場に目を丸くしてみせれば、三反田は慌てて名乗った。
「あっ、ぼく、三反田数馬。昼、一緒にどうって、誘いに来たんだった」
食堂の場所がわからないかもと思って、と三反田が言ってくれるから、桜は喜んで一緒に行かせてもらうことにした。

三反田と教室を出るときに浦風にも声をかければ、快く応じてくれたので、結局、三人で食堂に向かうことになった。
「お前の父親って、剣豪なのか?」
ランチを手に席に着くと、まず真っ先に浦風がそんなことを聞いて来た。
「剣豪というほど強いかは知らないけど、剣しか取り柄がない人なの」
名が広く知れ渡っている人を実際に使うのはできないので、桜がそう誤魔化せば、浦風はふーん、と興味があるのかないのかわからないような調子で相づちを打つ。
だから、今度は逆に桜のほうから聞いてみる。
「でも、何で? 何で、あたしの父親が剣豪だと思ったの?」
他にも職業はたくさんあったのに、なぜ剣豪を選んだのかが疑問だったので聞いてみれば、浦風は簡単なことだ、と前置きをしつつ口を開く。
「小刀とはいえ、女であるお前が肌身離さず持っているから、剣豪の父親から譲り受けたか何かして、大事なもんだと思ったんだよ」



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