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桜が腰に差している小刀を示してそう浦風が言うが、あながち間違ってはいない。
本当は桜がもらったものではないが、元の世界から持って来てしまったもののうちの一つで大事だし、身を守るのに一番頼りにしているのはこの小刀なので、そういう意味合いを持たせてもよかった。



午後は三年生が実習だったので、桜は一年生の授業に出ることになった。
桜は教科と実技に差がありすぎるので、実技だけ一年生に混じって始めから受けるように言われていた。
今日はは組が手裏剣の授業をやるということだったので、一番、忍者らしい実技じゃないかと、桜は凄くわくわくした。
ただそれよりも、すでに桜のことは話が行っていたのか、びっくりされることはなかったのだが、口々にあいさつと自己紹介をされて、それに答えることだけで大わらわだった。

授業は楽しかったが、もちろん始めからうまく行くわけもなく、桜の投げる手裏剣はすでに的にも届いていなくて、本来なら補習になるところだったが、今回は初めてということで、山田先生が免除してくれたので助かった。
手裏剣を初めて手にしたこともあり、授業が終わった後についまじまじと見ていたら、手裏剣の鋭利な部分で指を切ってしまい、ちょっとした騒ぎになった。

「な、何で、手裏剣の鋭い部分をなぞったりするんですか!」
庄左ヱ門が慌てたように言えば、兵太夫が目を丸くしながら、
「ぼくたちでも、手裏剣で手を切るようなことはないですって」
と、感心しているようにも聞こえる口調で続けた。
「桜先輩。とにかく、医務室へ!」
団蔵がそう言って、隣にいたきり丸が、
「おーい、乱太郎!」
と、後ろに向かって呼べば、乱太郎も慌てたように前に出て来た。
「桜先輩。早く、医務室へ行きましょう!」
言うが早いか、乱太郎は桜の怪我していないほうの手を取ると、グイグイと引きながら、言葉通りに医務室へと連れて行ってくれた。

どうやら校医の新野先生は留守にしていたようで、代わりにいたのは保健委員長である、六年は組の善法寺伊作だった。
そもそも、新野先生は医務室にいつもいるイメージがないなと、桜がそんな失礼なことを考えていれば、乱太郎に早口で説明された伊作が手をぐい、と引き寄せる。
それから、鮮やかな手つきで消毒をして包帯を巻くと、にっこり笑った。
「はい、終わったよ」
あまりにもやさしい顔で笑うものだから、桜は何だか急に恥ずかしくなる。



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