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「雑渡さん、どうしてここに? それより、よく見つからずにここまで来れましたね?」
突如、振って湧いたように現れた雑渡に向け、桜はそう聞きながら、この学園の門番とも言うべき小松田の目ざとさを思い出していた。
必ずといっていいくらい、侵入しても小松田には見つかってしまう筈なのに、騒ぎが起こっていないということは、彼の目を盗むことができたということだ。
「造作もないことだ」
と、軽く雑渡は言うし、本気を出せば小松田に見つかることはないのかもしれなかった。
「それと、始めの質問だけど、お前がうまくやってるか、様子を見にね」
それが、どうしてここにいるかの質問の答えとはわかったが、その意味を桜は測りかねていた。

雑渡の口調からすると、まるで桜がこの忍術学園に間者として来たかのようだったから、まさかと思った。
それとは裏腹に、雑渡が純粋に桜がこの学園でやって行けそうかを心配して来てくれたのかもと、そうも思えて、うまく返事ができなかった。
どういうつもりで聞かれたかにより、答えも違ってくるような気がしたので、簡単には答えることができなかった。

だが、雑渡はそのどちらでもない言葉を吐き出す。
「慣れない場所では、なかなか眠れないんでしょ」
ハッとして顔を上げれば、雑渡はいつの間にか自分のすぐ近くに座っていて、桜は落ち着かない調子で、あちこちに視線を移した。
枕が変わると眠れないわけじゃないが、こちらの世界にまだ馴染んでいないからか、確かにしばらく寝付きが悪かったのを覚えている。
「あのときは怪我のせいで、さすがに少しは眠れていたようだけどね」
さらに図星を突かれ、桜は返す言葉もない。
その通りだし、もし雑渡の言うように、慣れない場所では眠れないようになってしまっているならば、今夜、桜に眠気がなかなか訪れてくれないのは、そのせいとしか考えられなかった。

「桜」
滅多に呼ばれない名を呼ばれたことで、桜は我に返って雑渡に視線を向ける。
「……とにかく、布団には入ったほうがいいよ」
こんなところに座っていては、眠れるものも眠れないと雑渡がグイグイ押すから、桜は促されるままに布団に潜り込んだ。
「どこでも眠ることができなければ、忍者としてはやっていけないんだけどねぇ」
すっかり安心しきっていたところで、そう雑渡に言われ、桜は言葉に詰まった。
尤もな言葉だし、桜だって本来なら、どこでも眠れるタイプなのだ。



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