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こんな状況でなければ、忍者マニアか、どっかの役者だろうかと思うのだが、桜はそれも深く考えられない。
ほとんど覆面のようになってしまっているから、顔ははっきりわからないが、どうやら包帯を巻いているらしく、見えているのはその人の右目だけだった。

この人、どこかで……。
まわらない頭でそう考えようとするが、その人の言葉によって散らされる。
「そんなに辛いなら、抜けばいいのに」
なぜ抜かないのかと言われているかのようでもあるが、その人の口調は軽い癖に抑揚がなかった。
「抜け……ない、んです……」
上がる息を抑えられずに口にすれば、ああそうなの、とその人はまた感情の籠もらない声で、それに答えてくれる。
「……しか、も……ここが、どこか……わ、からな、いし……っ」
最悪、と長くしゃべり過ぎたせいか、目の前がちかちかして来たのでまた目を閉じる。
朦朧とする頭は、もう働いてくれそうにない。
このまま意識を失ってしまって、全部、夢で済めばいいのに、酷い痛みは、それも許してくれそうになかった。

「抜いてあげようか?」
不意に言われた言葉にハッと我に返り、桜は再び目を開けることを思い出す。
自分がいま、どんな状況なのか忘れそうになっていたようだ。
目を開ければ、目の前のその人の顔がさっきよりも近くにあって、こんな状況なのに桜は驚いた。
痛みで、感情なんて揺らされないかと思っていたのだ。
「……お願い、できるの……でした、ら……」
出血がどうとか、もう考えていられなかった。
熱く疼くような痛みは、もう我慢していたくない。
なるようになったらいいんじゃないかと、それだけだった。
「ん。じゃあ、抜くよー」
桜とは裏腹に軽い口調で言って、その人が二の腕をつかんだのがわかった。
力は強かったかもしれないが、桜には大した強さに感じられなかった。
「これ、噛んでな」
薄く開いた口に畳まれた布を挟み込まれ、桜は言われた通りに、震える口でそれを噛みしめる。
瞬間、腕の痛みが増し、桜はさらに歯を食い縛ったが、肉が抉られるような痛みと、全身を貫くゾクゾクッとした寒気に、耐えられそうもない。
焼けるような痛みは頭を真っ白にし、桜の意識を奪う。
「抜けたよ」
気が抜けるような声が聞こえたけれど、もう意識が持たなくなっていたので、うまく口が動かない。
痛みで痺れてしまった頭では、本当に枝が抜けたのか感じることはできなかったけれど、とにかく礼を言うのが先かと、桜は口を開いたものの、ちゃんと言葉になっていたかはわからない。




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