03



クラッと視界が揺れた後、スーッと目の前が暗くなったことだけしか、覚えていなかった。




目が覚めるとまず、木の天井が見えた。
自分の部屋は木の天井ではなかったから、どこか別の場所だとはわかったけれど、見覚えはない。
そもそも自分はどうしたんだっけと、考えを巡らせていた桜は、ようやく意識を失う前のことを思い出す。
なぜか突然、まわりが見知らぬ景色になっていて、動転していたせいで転びそうになって、傍の枝に腕が刺さってしまったのだ。
何て間抜けな……。
改めて考えると、そう思わずにいられなかったけれど、桜の住んでいた辺りにはあんまり林はないので、対応に遅れてしまったので仕方がないともいえる。
とりあえず、あの死ぬほど苦しかった痛みからは逃れられたようだし、気分もだいぶ楽になっていたので、他に考えなければならないことに、意識を移すことにした。

あの痛みでは、全てが夢だったと考えるのは難しい。
よりリアルな夢を見たのだと思えばいいのだろうが、左腕には違和感があることからしても、どうやらそうも考えていられない。
右手でそっとそこに触れてみたが、左腕には何かが厚く巻かれているようで、それが治療した形跡ではないかと思うと、やはり夢だとは片付けられなかった。
そうすると、考えることはさらに増える。
なぜ急に、林の中にいたのか。
いま自分がいるのはどこなのか。
治療をしてくれたのは、どこの誰なのか。
枝を抜いてくれたあの人と、同じ人なのか。
そしてあの人は一体、何者なのか……。
考えるのは、当面それくらいだろうか。
いずれにしても、もう少し様子を見たほうがいいかもしれない。
身体も怠いし、見知らぬ場所で下手に動くのは危険そうだった。

「……起きてたの」
静かな声と共に、枕元に人影が現れ、桜は思わず息を呑んだ。
気配がしなかったとかの前に、いまこの人は唐突に現れたようにさえ見えたからだ。
声と、軽い口調からすると、枝を抜いてくれたあの人のようだったから、あのまま助けてくれたのかもしれない。
「顔色はいいみたいだけど、痛みは?」
桜が驚いていても気にせずに、その人は話を進めるから、ないです、と素直に答えておいた。
そういえば、この声もどこかで聞いたことがある。
ふと気づいた桜は、意識が朦朧としていたときに、この人をどこかで見たことがあると思ったっけと、目を凝らしてみるが、部屋が薄暗いせいか、顔はよく見えなかった。



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