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「怪我、早く治るといいね」
鉢屋と同じように、呆れたような気配を見せていた不破は、いち早く頭を切り替えたのか、打って変わって桜の怪我の心配をしてくれたりして、やはりこの人はやさしい人なんだなと認識するには充分だった。

朝食が終わりかけたころ、他の五年生がまとめて食堂に入って来た。
六年生に限らず、五年生も朝食の前には自習や自主トレをして来るのかもしれない。
彼らは一様に疲れているようでもあり、それぞれに朝食の膳を持ち、どこに座ろうかと顔を上げて、ようやく鉢屋たちの存在に気がついたようだった。

「あれ? この子、誰……?」
鉢屋と不破のいる席に、真っ先に近づいて来た久々知兵助が桜に気づき、そう聞いてくる。
「あっ、ほら、あれじゃないか? 三年に入ったっていう女の子!」
竹谷八左ヱ門もそう言ってやって来て、最後に顔を出した尾浜勘右衛門は首を傾げてみせた。
「学園長先生の一声で、三年生に編入が決まったって噂の? えーと、名前は確か……」
懸命に記憶を探っているが、名前が出て来ないのか、尾浜がずいぶん考え込んでいたから、鉢屋がスッと口を挟む。
「新実桜だ。クラスはは組に決まったようだよ」
鉢屋にはまだその話をしていなかったはずなのに、さすがと言うべきか、本当に伝わるのは早いんだなと思った。
「よろしくお願いします」
とにかく、鉢屋に紹介されたような形になったので、立ち上がって頭を下げれば、今度は不破が三人の紹介をしてくれた。
これで五年生は全員分の名前を知れたので、心置きなく呼ぶことができると桜はホッとする。
本当に知らないなら、そこまで気にならないが、実は知っているので、知らないふりをするのは大変だった。

「この前も聞こうと思ったんだが、刀、使えるのか?」
ふと聞いて来たのは鉢屋で、やっと食べるのを終えた桜は、茶をもらって飲んでいるところだった。
いつでも小刀を携帯しているのが気になるようで、不破も、それからその言葉を聞いた他の三人も、桜の小刀に視線を落とす。
「一応、形になるくらいには扱えます」
父親が剣の使い手だと言えば、彼らは納得したようだったが、鉢屋だけは違う反応を示す。
「鈍くさいだけじゃなかったか」
手裏剣で怪我をしたと言ったからか、鉢屋の中ではすっかり、鈍くさいというのが定着していたのだろうか。
ただ、それについては桜も反論の言葉を持ち合わせていなかったから、別のことで切り返す。



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