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「鉢屋先輩。多少の遠慮は美徳だと思いますよ?」
にっこり笑ってみせれば、鉢屋がグッと詰まる。
それを見て久々知たちが三人で何やら言い合っていたみたいだが、桜はそろそろ引き上げようと立ち上がった。

そこへ、一年は組の数人が入って来て、桜に気づくと元気にあいさつをしてくれる。
「おはよーございます、桜先輩!」
朝から元気な彼らに多少押されるようにしつつも、
「おはよう」
と、桜もあいさつを返す。
これから朝食なのはわかるが、何を食べるかでもめたり、悩んでいる姿は何だか微笑ましくて、桜はふふっ、と笑ってしまっていた。
それから、自分が引き上げるつもりだったのを思い出し、食堂のおばちゃんに声をかけると、桜は早々に授業の用意を始めることにした。



教科の授業は、今日は二年生のクラスで受けることになったらしく、指定された二年い組の教室に桜はいた。
桜の世界とは違い、五教科みたいに複数教科があるわけではないし、先生は固定されているし、実技以外で移動することはないから、その点は楽だった。
「先輩っ……先輩っ……ページ、間違ってますよ!」
先生の話を聞きながらぼんやりしていれば、隣の能勢久作が小声で注意を入れてくれる。
やはり、桜が三年生なのは聞いているらしく、始めから敬語だ。
「え……どこ?」
忍たまの友は、適当にこの辺かなと思って開いたくらいで、あとは見ていなかったので、慌てて桜は能勢の開いているページを確認する。
「ありがとう、能勢くん」
ページが合ったのをちゃんと見てからそう礼を言えば、能勢は何だか少々照れたような顔をして、いいです、と小さくつぶやく。
能勢は照れ屋なのかなと思いつつ、桜はそんな様子に思わずといった感じで、口元を緩ませた。

三年は組の教室に戻ってすぐ、ろ組の三人が桜を訪ねてやって来た。
三人はそれぞれ自己紹介してくれたあと、早々に本題に入った。
「桜。用具委員会は人手不足なんだ。是非入ってくれ!」
三年の自分以外は、あとは一年生なのだと富松作兵衛が握りこぶしを作りながら勧誘して来て、桜は彼らの目的を理解した。
こちらに編入したのだから、委員会は必至なのだろうが、ある意味、用具委員会は器用さが必要なのでつとまるのだろうか。
わかっているが、委員会の活動内容をとりあえず説明してもらっていれば、神崎左門が割り込んでくる。
「桜。それより、会計委員会に入れ!」
きっと一人でも多いほうが、自分の仕事も減るからか、必死な物言いだ。



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