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しかも、雑渡がこのように焔硝蔵のことを口にしたということは、全く期待はしていないが、それでも桜の口から何某かを聞き出そうとしているということだろうか。
どちらにも、互いの情報を入れることなく、ただこの忍術学園に通いたいと思う桜が甘いと言うのなら、反論はできなかった。

しかし、雑渡の口から焔硝蔵についての質問は出ず、かといって他の学園の情報についても、突っ込んで聞かれることはなくて、桜はホッとしてしまう。
雑渡が聞かないなら、あとは桜がタソガレドキの人間だと忍術学園にバレなければ、普通の生活を送れそうだった。
「じゃあ、私は帰るよ」
今回はそう予告してくれたから、桜は慌てて、訪ねて来てくれたことに礼を言った。
立ち上がった雑渡は、最後にするりと桜の左手を撫でると、あっという間に、音もなく出て行ってしまった。

桜は、雑渡が撫でて行った左手に視線を落とし、この手に何かあっただろうかと首を傾げたけれど、考えてみれば、前回、雑渡が来たときは手を切ったばかりだったのだ。
あのときも怪我のことを気にしていたけれど、考えていたより心配させてしまったのだろうか。
あれは避けられた怪我でもあるから、だとしたら、とても申し訳ない気がした。
いま桜の手は包帯も取れ、傷跡もようやく目立たなくなって来ているから、雑渡がしたみたいに、触らないとわからないだろう。
だから、雑渡のあの行為はわかるのだけれど、少しドキドキしたのも事実だった。



夜中の訪問者があったからというわけではないが、少し寝不足で朝食の席に行けば相変わらずの五年生チームに会った。
時間が早いから、ちょうど顔を会わせるタイミングなのだろうか。
膳を持ってどこに座ろうか考えていれば、不破に手招きされたので、今朝も五年生と食事をすることになった。
空いていたのが久々知の隣だけだったので、みんなにあいさつを済ませたあと、桜はそこに腰を下ろした。

「ああ、桜。ちょうどよかった」
食べ始めた途端に、久々知が思い出したように口を開いたので、桜は隣に視線を移す。
「放課後、焔硝蔵の掃除頼むよ」
「……久々知先輩と、ですか?」
掃除当番は二人一組くらいでやるのかなと思ったので、すぐに聞き返せば、久々知はごくごくまじめに返してくる。
「三郎次とだよ」
「……何だ、残念」
池田に不服はないのだが、そう言ってみると、久々知が面食らったような顔をしたので、桜はにっこり笑ってみせる。



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