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暗に、久々知との当番がよかったと言いたかったのだが、きっとそのうち、そんなこともあるだろうし、それならどちらでもいいかと口にはしなかった。


放課後は久々知に言われた通りに、焔硝蔵の掃除に向かった。
火薬委員会の中では、委員長代理の久々知の次に頼りになるのが池田だったので、思っていた以上に掃除は早く終わり、桜たちは早々に上がることになった。
「じゃあ、鍵は返しておきますから」
そう言う池田とは焔硝蔵の前で別れたのだが、まだ時間も早かったから、土井先生のところでも寄って行こうかと、桜はくるりと方向転換した。
瞬間、ボスンッと何かに真正面からぶつかって、桜はようやくそこに誰かがいたことに気がついた。

人の気配には敏感なほうだと思っていたが、気が緩んでいたのと考え事をしていたせいか、全く気づいていなかったことに桜が自分で苦笑していれば、頭の上から声が降ってくる。
「これって役得?」
それを桜本人に確認してどうするのかと半ば呆れながら顔を上げれば、やはりそれは鉢屋だった。
にんまり笑われると、反発したくなる。
しかし、ムキになっても仕方がないと思うので、桜は大きく息を吐くだけに止める。
「真後ろにいらっしゃったということは、何かご用心でした?」
方向転換しただけでぶつかったのだから、かなり近距離にいたということで、だとしたら、それが一番考えられることじゃないかと思えた。

急に鉢屋が真顔になったので、桜は無意識に身構える。
この人はこれでいて侮れないから、何を言われるのか気になってしまう。
「桜さ……火薬委員会、楽しいの?」
まじめな顔で何を言われるかと思えばそんなことだったので、桜は違う形で意表を突かれる。
「……どういう意味ですか?」
心配して聞いてくれているのか、つまらなさそうに見えるから興味があるのか、判断に迷う。
けれど、鉢屋は桜の質問には答えずに、さらに続ける。
「土井先生にわざわざ聞きに行ってまで、必死に火薬や火器についての勉強したりして、何企んでんのさ?」
予期せぬ鉢屋の言葉に、どれから驚いていいかわからなくなる。
桜が土井先生のところへ、火薬や火器の勉強に行っていることを鉢屋が知っていることにか、何か企んでいると邪推されたことに、なのか。
もしくは、このタイミングでそれをわざわざ聞いて来たことに、だろうか。
判断はつかなかったけれど、ただ鉢屋は、思っていた以上に疑り深い人だと認識するには充分だった。



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