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桜は後ろめたい出身ではあるが、忍術学園には純粋に忍術を習いに来ているし、それについてはやましいところはない。
強いていうならば、桜はこの世界のことを知りすぎている、というくらいなのだが、すでにこの学園に入ってだいぶ経つので、知らない生徒はいないから、ほとんど気を遣うようなこともしていないはずだった。
なのになぜ、鉢屋はこんなふうに言うのか、よくわからないというのが本当のところだ。

「……委員会に入ったからには、でき得る限りで活動したいと思うのは、変なのですか?」
力になれるかはわからないが、考えてみれば、久々知と池田以外は桜を含め、一年生と変わらないので、きっと大変なんだろうと思ったから、何とか頑張れるだけは頑張ってみようとしているのだ。
「それに、あたしは火薬と聞くと恐い印象が先に来てしまうので、ちゃんと知識を得たり、少しでも慣れておこうと思っているだけですけど、それもやっぱりおかしいとおっしゃるんでしょうか?」
臭いすら慣れていなかったので、これから使って行くとしたら、どうしても避けて通れないものだったから、どちらも桜の本音だった。

何事か言うつもりだったのだろうか。
鉢屋が口を開くのは見えたが、足に何かが触ったような気がして、視線を落とした桜は、
「ひっ……!」
と、詰まったような悲鳴を上げると同時に、自分でもびっくりするほどの素早さで、後ずさった。
「ヘビ嫌い!!」
なぜか自分のほうへと這ってくるのを見て、桜はヘビを遠巻きにしながら、再び鉢屋の傍に戻る。
「あれは、三年い組の伊賀崎孫兵の飼ってる毒ヘビのじゅんこだ」
鉢屋はのんきに説明してくれるが、桜ははっきり言って、それどころじゃない。
「毒ヘビだろうがただのヘビだろうが、どうでもいいんです! 長くてにょろにょろしたものは、全部嫌いなんですから!」
鉢屋の背中に張りついて、ヘビの行方を確認しながら桜はそう主張する。
本当はヘビを見ているのも嫌なのだが、気がついたら自分の傍にいたっていうのはもう勘弁して欲しかったから、完全にどこかへ行ってしまうまで、目が離せなかった。

ヘビがいなくなったのをちゃんと確認した桜は、ようやく鉢屋の後ろから出て来ると、ホッと胸を撫で下ろす。
伊賀崎の飼っている虫やサソリ、ムカデなんかは平気だが、あのヘビだけは全く慣れる気がしない。
だから、あんなに逃がさないでねとお願いしてあったのに、こんなところで会うとは思ってもみなかった。



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